カテゴリー「科学論」の記事

2011年12月14日 (水)

メタスパイラル

メタ論を論ずるSTSの平川氏や春日氏の言ってる事が全く参考にならず、同じく科学をメタに論ずる分野である所の科学哲学の伊勢田さんの論が大いに勉強になる、という違いはどこから来るのか、などと考えた。

多分、伊勢田さんが徹底的にベタな議論に乗ってくれるから、だと思う。具体的な専門分野からの批判を覚悟して発言しているからなのかな、と。だから論点が明確になりやすい。どこが誤っていてどこが妥当なのか、というのを絞って議論しやすいから、建設的なやり取りが出来る。

分野云々じゃ無くて、個別の論者の姿勢なんだと思う。

牧野さんの「STSとは?」 - Togetter

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2011年12月12日 (月)

主観、主観、ただ主観

【からだ こころ いのち】再生の時代 幼児体型の大人が増加(1/2ページ) - MSN産経west

なぜ月刊『秘伝』の記事が産経に?と思わずにはいられない内容。

述べられているのは、主観的印象に基づいた独自の身体観と社会観。そこに科学的な根拠らしきものは全く示されていない。「野口晴哉( (野口)整体の創始者)」の名と野口の論の紹介はあるが、私の知る限り、野口は自らの施術の経験に基づいて独自の体系を創出したが、その体系の有効さやメカニズムがバイオメカニクスや整形外科学や運動生理学等によって実証的に支持された、という話は聞かない。

この論を開陳している方のプロフィールを見ると、どうやら社会学系の教員のようである⇒プロフィール :: 研究業績・活動履歴(論文・学会発表・著書(主なもの)) || 平山身体文化研究室
業績を見るに、なかなか興味深いタイトルが踊っているが、どうやら体育学やバイオメカニクス系の論文は無いようだ(CiNiiでも社会学系のものが数件しかヒットしない)。

体型というものが、認知のあり方や行動の傾向と関連する事は、理論的には充分に有り得る。たとえば、筋肉や脂肪の量や身体各部への分布などが運動のありようと関わり、それが生理学的に意味のある違いとなり、さらに心理学的な状態と関係する、というものであったり、いわゆるジェンダーステレオタイプなどが、体型と人格的な部分を結びつけるような社会的認知を形成する可能性もある。「メカニズムとして一応想定は可能」というレベルでは。
それを仮説として提示し、実証的に研究していくのは科学的に重要だし意義のある事だろう。しかしながら、「印象」などという極めて主観的なものに基づいて論を展開し、あまつさえ、身体的特徴に「あるべき方向」のようなものを設定し、「体型の正常な発達段階」のようなものを想定する。更にはその事と、「特定の文化を嗜好」する事とを結びつけ、当該文化領域を、正常な発達を妨げるものとして批難する、というのは、いささか慎重さに欠けるのでは無いだろうか。
苟も学者と標榜するのならば、新聞記事であり論文で無いとは言え、○○の研究によれば――とか、△△学で解っている所では――という風に、持説を支持する知見についての情報を示すのが筋だと思うのだが、いかがだろう。

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2011年12月 7日 (水)

公衆衛生

本屋で見たんですが、『公衆衛生マニュアル2011』が大変良うございました。
南山堂|衛生学|公衆衛生マニュアル2011

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2011年12月 6日 (火)

ひとまずまとめ――患者調査において、「宮城県の一部地域及び福島県の全域について調査を行わない」事について

先日より言及している、福島県全域および宮城県の一部において「患者調査」を行わない、という事について、ある程度情報が集まりましたので、取り敢えずまとめておきます。

●話の流れ

その前にまずは、どういう経緯でこの話題が広まっているか、流れを押さえておきましょう。

▽発端

確か、何か調べ物があって、twitterのリアルタイム検索で見つけたのだったと思います。そこで、福島県や宮城県において、「患者調査」が行われないという事が、驚きをもって紹介されていました。そして、次のページにリンクが張られていました。

白血病急増のネット情報に関し日本医師会に、引き続き「患者調査」について厚生労働省に電話照会を行った 宮島鹿おやじ

ここでは、投稿者が、先日広まった「白血病が7倍(省略して表現)」という情報に関連して、医師会および厚労省に問い合わせを行った経緯が詳しく紹介されています。まず医師会に、白血病に関する統計的な資料はあるかと訊き、そこで「患者調査」というものがあると言われ、厚労省に問い合わせた、という事のようです。厚労省職員との電話でのやり取りが、詳しく書かれています。
そして投稿者は、その説明のある内容に驚愕します。それが、「福島県が患者調査から除外されている」という事です。
このやり取りの記述はなかなかによく書けていて、読む人にはセンセーショナルに映ったのでしょう。twitterで紹介している人も、国は何をやっているのだ、と憤っていました。

これらをリアルタイム検索(Yahoo!のtwitter検索サービスを指す)で目にして私は、ちょっと扇動的なのではないか、と感じました。まず、「調査」というのは、色々な目的があり、調べ方にもバリエーションがあります。また、調査から除外したという事は、そう決定するに至った何らかの合理的な理由があるのかも知れない、と思ったのです。
上の掲示板ではその理由について、

国:復興を優先するため、被災した地域については今回の調査からはずした。

こう説明されたとあり、ここに投稿者は疑問を持ったようでした。他に被災している地域があるのに、なぜ、と。確かにその疑問も尤もな所があるし、自分は「患者調査」というものについてよく知らないので、調べてみようと考えました。また、私がリアルタイム検索を見た時点では、この話題に触れているのは数件程度だったのですが、内容がセンセーショナルな事もあり、不正確な情報のままこれが広まってしまってはまずいな、と思い、情報求む――患者調査において、「宮城県の一部地域及び福島県の全域について調査を行わない」事について という記事を書き、この「患者調査」という調査でなぜ福島県・宮城県を除外するのか、それについて詳しい内容を知っていたり資料があれば教えて欲しいとお願いしました。

そこで得られた情報については後で紹介する事にして、次に、私の「悪い予感」の通りになってしまった事、つまり、この「福島県を除外する」というインパクトある情報に、色々余計なものが付け加わって不正確なまま次々に拡散されていった、という流れについて書きます。

▽拡散

上でも書いたように、リアルタイム検索で最初に私が見た時は、話題にしているのはせいぜい数件程度でした。しかし、この種の情報は、余計なものが乗っかって広まる事があるので、リアルタイム検索を定期的に見ていたのです。
なぜtwitterに注目したかと言うと、twitterというのは、フォロー・フォロワー、という繋がりがあり、公式RTの仕組みを持っていて、しかも一投稿140文字制限がある事で、容易に不正確な情報が爆発的に拡散される可能性を有しているからです。人気のあるユーザーは、フォロワー数が数千から数万あり、その人の投稿やRTをタイムライン上で見、それを有用な情報として更に拡散させる、という構造を考えれば、驚異的です。※広告系のものでイレギュラーな方法を用いてフォロワー数を増やしているのもあるし、フォローはその人を支持して行うとは限らないので、フォロワー数というのは、参考にはなるが大まかな目安程度に取っておくのが無難

そして案の定、この嫌な予感は当たってしまいました。フォロワー数(※簡単に言うと、フォローというのは、その人の投稿が自分の画面上――タイムラインという――に出るように設定する事。フォロワーが沢山いるというのは、相手の投稿が自分のタイムラインに出るよう設定する人が沢山いるのを示す)が多い、twitter上の ある層において著名な人々が、情報を広めたのです。たとえば次のような人達です。

東海アマ氏(フォロワー数:54,634 ※本エントリー執筆時点。以下同様)

きくちゆみ氏(フォロワー数:14,536)

はなゆー氏(フォロワー数:20,124)

数万のフォロワー数を持つこれらの人々が紹介し、それがRTされて、次々に拡散されていくという構造です。
ここで「RT」を補足すると、「RT」とは「リツイート:retweet」の事で、他人の投稿を転載する機能を指します。これはtwitter公式の機能で、自分の画面上で何か興味深い投稿が流れてきた場合、それをRTする事によって、自分をフォローしている他の人の画面にも元の投稿が表示される、というものです。
たとえば、A氏がB氏をフォローしていて、B氏が面白い投稿を書いていたのが画面に流れてきたので、それを紹介すべく、A氏がB氏の投稿を「RT」します。そうすると、A氏をフォローしているがB氏はフォローしていないC氏の画面上にも、B氏の投稿が表示されるという寸法です(A氏がB氏の投稿を転載した事になるから)。
ここでポイントなのは、RTは投稿の転載であるから、それだけでは、好意的な意味なのか否定的な意味なのかは判別出来ない、という事です。前後の投稿を見れば、どういう意図でRTしたかは解る場合がありますが、twitterの投稿は140文字ずつのもので、前後の投稿は簡単に参照出来ないので、転載された投稿が、転載した人の意図を離れて拡散されてしまう場合があります。
RTは数クリックで出来るという気軽さがあるので、不正確な情報が短期間で爆発的に広がる危険性をはらんでいる訳です。これが、twitterでの動向に注目する理由です。
※公式の機能を使わずに、「自分の投稿の中に」他者の投稿内容を転載するというやり方もある(非公式RTと呼ばれる)。

上で紹介した人々のページの下に、「○○と他△△人がリツイート」と表示されていますが、これが、RTされた数を表します。フォロワー数が多い人の注目される投稿は、優に100RTを超えます。その全てが肯定的な意味でRTされるとは限りませんが、数千から数万の人が投稿を見て、また数百人からの人がRTをするのですから、その情報の拡散の度合いは相当なものと思われます。

こういったプロセスでtwitter上で拡散されてきて、私が最初見た時には数件だったのが、1時間辺りに数件から十数件はこの話題を取り上げるようになっていました(リアルタイム検索を、「患者調査」で検索した結果)。これは非常にまずいな、と思いました。検索でこれだけ出るというのは、「見て知ったが広めてはいない」人も含めると、かなりの数の人に情報が行き渡った事が推測出来るからです。中には当然、怪しさを指摘する懐疑的な意見もありますが、きちんと調べずに広めているのも非常に多い。

このように、twitter上で着々と広まっている様子が見て取れ、これはいけないな、と思い、このまま、2ちゃんねるのまとめサイトなどで取り上げられたらたまらないな、と考えていたのですが、やはりこの好ましく無い予測も当たってしまいました。

アルファルファモザイク:「白血病や癌などの追跡調査、今後は福島県は 除 外 します☆(ゝω・)v」by厚生労働省

これは2ちゃんねるのスレッドの投稿を抽出してまとめたサイト(いわゆる「まとめサイト」)で、人気のある所では、相当の閲覧数があります。また最近は、ページ上に、twitter上で記事を簡単に紹介出来るボタンを備えたブログも多いので(アルファルファモザイクでは、記事タイトル左部にある)、twitterと連鎖して情報が爆発的に広まる事があります。

このようにして、おそらくかなりの人々に、福島・宮城で「患者調査」が行われない事が広まったと推測出来ます。
ここで何が問題かと言うと、「患者調査を一部地域で行わない」のは事実なので、それ自体は別に良いのですが、広める人の中には、「他の余分な情報」を付け加える人がいる事です。たとえば次のようです。

http://twitter.com/#!/precious_grove/status/143101234952409088

http://twitter.com/#!/Ukoh_rain/status/142884598324535296

http://twitter.com/#!/molderlyouma/status/142819490424553472

http://twitter.com/#!/taknom/status/142797581108514816

「隠蔽」の語が踊っています。福島県全域および宮城県一部において患者調査を行わないという「事実」に、それが「隠蔽」のためである、という「解釈」を加えている訳です。これは端的に言って、「陰謀論」です。つまり、国が自身に都合の悪い情報を隠さんと調査を(一部で)中止した、という考察を行なっているという意味で、国の陰謀を示唆している。
しかし、ある現象が確認された場合、それに至った経緯や原因として考えられるものは一つではありません。今の文脈だと、患者調査を一部で行わないという現象は、「国が都合の悪いデータを隠蔽するため」だという理由以外に、様々な理由を考える事が出来ます。そして、それを確認するためには、「証拠」が必要です。既に公開されている資料等を探して、総合的に検討し、尤もらしい理由を探る作業が必須です。そこで、次からは、私が集める事の出来た資料および、コメントで頂いた意見を紹介します。

●資料

※PDFファイルからの引用に際して、改行や文字間のスペースを適宜調整する

まず根本的な所から。「患者調査とは何か。どんな目的で行われるか」について。

厚生労働省:患者調査

厚生労働省のサイト内の、患者調査の資料を載せているページです。ここの「調査の目的」に、次のようにあります。

 この調査は、病院及び診療所(以下「医療施設」という。)を利用する患者について、その傷病状況等の実態を明らかにし、医療行政の基礎資料を得ることを目的とした。 ※強調は引用者

平成23年度の患者調査の概要については、平成23年患者調査にご協力ください|厚生労働省 に掲載されています。
また、群馬大学の中澤港准教授(公衆衛生学、人類生態学、人口学)の講義資料に、患者調査を含む各種調査について詳細な説明がありますので、ご覧下さい。
人口統計・保健統計(テキスト第 2 章)(PDF)
中澤氏の資料より引用します(文を引用してリストにした。強調は原文。下線は引用者による)。

  • 患者調査 死因別死亡は人口動態統計でわかるとして,医療費や医療ニーズを把握するためには,どれくらいの人がどういう病気になってどういう医療を受けているのかという情報が必要である。それを調べるのが患者調査である。
  • 厚生労働省所管
  • 統計法による指定統計(詳細は患者調査規則)
  • 病院及び診療所を利用する患者について、その傷病状況等(推計患者数,受療率)を明らかにする
  • 3年周期で実施。直近は平成 20 年度実施(平成 21 年 12 月 3 日に結果の概要が発表された*9)。
  • 全国の病院、一般診療所、歯科診療所から層化無作為抽出された施設で,指定された3日間のうち1日について,患者の傷病名等を記録し,報告する。
  • ▽季節・曜日の代表性は不明
  • ▽傷病別に受療率が推計できるが,罹患率は求められない(病気に罹っても医療施設を利用しない人がいるため。罹患率がわかる疾患は限られている)
  • 平成 20 年度患者調査からは,入院患者総数が 139 万人強(病院が 133 万強,診療所が 6 万弱),外来患者総数が 686 万人強(病院が 173 万弱,診療所が 383 万弱,歯科診療所が 131 万弱)といったことがわかった。歯科診療所の外来患者のみ前回(平成 17 年度)より増えているが,他はすべて前回より減っている。

これが、当該調査の概要です。つまりこの調査は、特定の日に医療施設にかかった人がどのくらいいるか(受療率)を、医療施設の一部(標本)について、医療施設の管理者に調査票に記録してもらい、医療の需要や医療費について把握するために行われるものである、と要約する事が出来ます。

これは「標本調査」ですから、全体から一部を採ってきて(抽出する、と言う)調べ、そこから全体の性質を推測するものです。これは、見方によっては「大雑把」なものですが、どのくらいの精度を要求するかというのは、調査目的によります。患者調査の目的に鑑みて妥当な調査という事なのでしょう(精度を高めようとするとコストがかかるので、それとのバランスを取る必要がある)。
そして、三年に一度、ごく短期間について調査します。ですから、ある病気に罹った人がどのくらいいるかを精密に、継続的に記録し報告するものとは、基本的に目的が異なっている訳です。
これは、先日eurisko1さんに、コメント欄で詳しくご説明頂いた内容とも整合しています。
従って、一部地域で患者調査を行わないという事実のみをもって、「国が隠蔽している」という解釈を正当とする事は出来ません。そもそも調査目的が違うからです。

次に、患者調査において「福島県全域および宮城県の一部を除外」する事について、その理由が述べられている資料を示します。※順番は、資料の発表時の時系列順では無く前後します

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統計分科会審議会議事録|厚生労働省
これは、10/20に行われた統計分科会審議会の議事録です。ここで除外の理由について説明されています。その部分のみを抜粋します。

大震災に対して特別な措置を講じたものということで、大きな被害を受けた地域を対象地域から除外するというものが3調査

患者調査につきましても、これも3年に1度の調査なんですが、今年が調査の年になっておりまして、まさに今月が調査月になっているわけですけれども、宮城県の一部地域と福島県の全域については、調査を行わないということで対応しております。

医療施設調査と患者調査で、宮城県の一部と福島県の一部はやむを得ないと思うんですが、福島県は全域で患者調査とか、静態を行わないというのは、地域保健医療計画の策定に障害を及ぼさないのかどうかということをちょっと心配する ※引用者註:これは他の委員からの質問部分

患者調査なんですけれども、これは今、福島県は特に地震だけの影響ではなくて、原発の影響もあって、平時でない状況が続いているということで、そういった状況をあえて調査したとしても、その後の利用に耐え得るかという考え方から、患者調査の方については今回見送るという形を取っております。 ※強調は引用者

このようです。
ここでは、福島県全体を除外する理由として、原発事故への対応の影響である事が示されています。
ここで注意しなくてはならないのは、質問をした土屋委員の疑問は、調査しない事によって、医療行政を行うに当たって支障が出ないか、という懸念であって、たとえば白血病が増えていたとしてそれを見落とすのではないか、といった疑念とは全く異なっている所です。先述したように、そもそも三年ごとの調査なのですから、継続的に厳密に調査する、というのとは違っています。

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第46回 統計委員会 議事録(PDF)

 最後に4番目の患者調査についてでございます。  この調査は3年ごとに医療機関を対象としまして、その医療機関を利用する患者の傷病の実態を調査するものでございます。この調査についても、震災に関連しまして、調査対象地域及び報告者数に関する変更が行われております。具体的には、まず、調査対象地域から宮城県の一部の地域、これは先ほど申し上げた医療施設調査と同様に、石巻市や気仙沼市周辺地域ということでございますが、これらの地域及び福島県を除外するとともに、この地域内の報告者が除外されることから、報告者数を削減するというものであります。これによりまして削減される報告者数は、 病院が約200ということで当初予定客体数全体の3%程度。一般診療所が約100ということで当初予定客体数全体の1%程度。そのほか、若干の歯科診療所となっております。 ※強調は引用者

ここでは、宮城県の一部がどこであるかの説明がしてあります。

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第30回 基本計画部会 議事録(PDF)

それから、患者調査につきましても、宮城県の一部、福島県の全域について調査を行わないということで連絡しております。具体的に宮城県の一部というのは、津波の影響を受けているところでございます。 沿岸部の辺りについてできないという形になっております。福島県については、この患者調査も衛生部門を経由して調査しているのですけれども、地震のほか、原発の避難者の対応等に忙殺されているということがございまして、こちらについても調査を行わないことになっております。 ※下線、強調は引用者

ここでは、より具体的な理由が説明されています(他の統計の取り扱いや方針についても詳しく説明しています)。つまり、福島県全域が患者調査の除外対象となっているのは、「原発の避難者の対応等に忙殺」されているというのが理由の一つであると示されています。

●考察

このように、福島県・宮城県(の一部)が除外されている事について、理由を示す文書がいくつかあります。
つまり、福島県全体が除外されるのは、被災地であり、かつ原発事故関連で忙殺されていて人手が割けないから、という事のようです。また、現況で何とかデータがとれたとしても、それを患者調査の目的に照らして役に立つものとして活用出来るか、などが勘案されて、他の事を優先し、今回は患者調査から除外した、という流れなのでしょう。私はこれは、除外するに合理的な理由であると考えます。

ここで、参考になりそうなものを紹介します。

おしどりケンのワイヤーグラフ誌: 12月5日 厚労省への電話取材

漫才コンビの方のブログのようですが、厚労省に電話で問い合わせたという内容が書かれています。ここで、福島と宮城が除外された事について説明されている様子があります。引用します(原文の文字修飾は外し、改行を修正して引用する。強調は引用者による。以下同様。文章は全て原文ママ)。※一番下に注意事項

厚労省の人
「県や保健所を通じまして、医療機関に調査票を配布をしているんですけれども、その調査票にですね医療機関のほうであの、カルテを送っていただきカルテから症状なり患者の治療状況 を転記して頂くんですね、その患者調査の…は…に実施…アップされておりまして…というのはご覧いただけるとおもうんですけれども、はい、まあ調査を実施するにあたり、医療施設のほうも被災をしていて保健所も被災による復興作業で、そういう事で、とても調査できる状況ではないという事ですね。」
「もう一つは、限られた医療施設、一部地域では施設が全壊したり半壊したりしている状況もございますので、…通常の状況ではない…結果の偏りという事も考えられますので、…正確な推計ができないという事であの、除外をしております。」

このようにです。標本調査では、調べる対象のあり方によって結果に偏りが出る事があるので、それが考慮されている。その他、岩手県が除外されていない事についても言及があります。

おしどりマコ
 わかりました。
 ではこの宮城の一部、というのは主に大体どのあたりなんでしょうか。
除外をされる地域というのは。
厚労省の人
沿岸部、石巻医療県というのがありまして、市区町村ごとに調査設定をしているんですけれども、医療県で対応できないのが石巻医療県と気仙沼医療県

ここは、先に挙げた資料にある内容と整合します(「石巻市や気仙沼市周辺地域」)。

厚労省の人
「えーえーえー、はいあの被災した、そうですね原発の周辺の人たちが避難をしている状況で、そういう人たちの診療に追われている状態もございますので、 あの平時でも (声が小さすぎて聞きとれず)  」

ここでも、原発事故関連でリソースが割かれている事が言われており、前掲の資料と整合します。また、福島県と協議した、という事も書かれています。

厚労省の人
「えーえーえー、患者調査はもちろん被災ー  福島や宮城の情報を出来るだけ把握する必要があるという事は重々分かっておりますが、先ほど申し上げたようにデータの正確性、あとまあ調査に協力いただける自治体の協力を得られなかったという状況な訳なんですけども、別途災害による健康状況をフォローする調査があのー、内閣府の方で行なわれておりますので、そちらの結果等をご参照していただければ、全くその被災後の健康状態が国の方では分からない、という訳ではございませんので」

ここも整合しています。また、内閣府の調査にてフォローが出来る事も示唆されています。

このように見ていくと、除外される理由について、ある程度詳細に解ります。私としては、特に問題の無い、合理的な理由に思います。

もちろん、「出来ればやるに越した事は無い」のは解り切っている事です。受療率は重要な指標なので、正確なデータが取れるなら、あった方がいいに決まっている。しかし、現況ではそれが出来ないという見通しがあって、他に優先すべき事があると判断され、除外に至った訳です。

もしこれを見ても納得出来ない、というのならば、何とかリソースを割いて、「他のものより優先させて」患者調査を行うべきである、という事を合理的に論証する必要があります。そして、「隠蔽」を仄めかす人は更に、「隠蔽という動機を示す証拠」を提示せねばなりません。これは陰謀論ですから恐ろしく強い主張です。それを支持するに充分な強力な証拠を示す必要があるのです。それには、公衆衛生や保健統計の専門概念を把握して、各種調査の意義を理解し、何よりも患者調査を優先させるべき理由を示し、「今示されている除外の根拠」が不合理的な理由を、出所のはっきりしているデータに基づいて説明する。福島県の原発事故対応に忙殺されているという理由が今示されていますが、それがおかしいと言うのならば、福島県の現状、被災状況や資源配分のあり方を網羅的に把握して、その上で、「現状でも充分可能でありやるべきだ」と反駁しなければなりません。
それには、様々な資料を調べ、県や国に問い合わせをし、医療施設の情況を精査しないと充分な考察とは全く言えないでしょう。

隠蔽している、国は誤魔化している、と「言う」のは簡単です。しかし、それを論証するのは困難です。憶測を重ねていても、少しも先に進む事は出来ません。重要なのは「証拠」です。それを示さずに騒ぎ立てるのは無責任です。
もし、無責任に主張しているのでは無いし、国の欺瞞に対し正当に憤っているのだ、と認識しているのであれば、それなりに資源を割いて、調べ尽くすべきでしょう。それが出来ないのなら、何も言っていないのと同じです。

※注意事項:音声のアップロードでは無く電話による問い合わせの文字起こしという事で、情報の信頼の度合いは一段落ちる、というのを考慮しておく必要があります。これは、内容を意図的に変えている可能性の話では無く(厳密に考えればあり得るがキリが無いので措く)、聞き逃し、聞き間違い、書き忘れ、書き間違い、などのエラーによって情報が変容してしまうのを考える、という事です。これは、発端の阿修羅での投稿内容においても同じ事が言えます。
ですから、問い合わせ内容と、既に示した資料との整合を見る事によって検討しています。
また、言及先のブログや関連のtwitterを見ると、立場としてはむしろ脱原発のようなので(かつ、正確な情報発信を心がけているように見える)、その意味で、積極的に国に利する事を書くバイアスはかかりにくいという想定もしてあります。いずれにしても慎重に見て下さい。

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2011年12月 4日 (日)

科学コミュニケーション――科学語での会話

コメント欄に書いた事をそのまま載せます。

こないだから書いてるように、やっぱ、確率とか統計とか、率とか年齢調整とか、そういう概念そのものからちゃんと教えなきゃいけないと思うんですよ。
これまで興味を持ってこなかった人が、「病気が増える」とか「死ぬ人が多くなる」とかいう事に「言及したがっている」。それで、そういう所を語るには、上で挙げたような概念の理解が「必須」な訳です。これ知らないのは、ルールをよく解っていないのにスポーツを語ろうとするのと同じような事で。

で、そういう部分について語るなとか黙れとか言うのは非現実だから、もう「教えるしか無い」。誤解や誤読をなるだけ防ぎたいのなら。
もしかすると、数年もすれば「関心が無くなる」かも知れません。人の興味というのはそういうものだから。でも、それを想定したってしょうがない。これからも何が起こるかは解らないのだから、知識の備えは大切。それを鍛え、底上げするのがいわゆる科学リテラシー向上でしょう。

欠如モデルがどうとかそういうメタな話をしてるんじゃないですよ。「意味が解ってなきゃ話にならない、話が出来ない」という、ほとんど常識的な部分の延長です。

---------

具体的な分野で言うと、公衆衛生、保健統計、疾病統計、疫学、等々。また、その基盤となる確率論や統計学。
今、そういう分野について、易しく噛み砕いた説明が必要とされているでしょう。つまり、より「具体的」な知識の重要性。
そこでは、地道に理解を進めていく必要があるし、必ずしも勉強して面白いと思えるものでは無いですが、それでもやらなくちゃいけないので、日常的な事例でたとえるなど工夫して関心を持ってもらう、というのが重要になってくるのでしょうし、それはサイエンスコミュニケーションの観点からもとても大切でしょう。

私としては、疫学・医療統計界の大村平さんのような方が現われる事を願っています。

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印象

「6.6%増加した」

「1.066倍になった」

印象違いませんか?

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2011年11月26日 (土)

検定の注意事項

良い説明があるので引用します。※強調は私による

 検定に慣れてくると陥りやすい一つの落とし穴がある。たとえば,検定では,「H0:π=0.5」という帰無仮説が棄却されたに過ぎないのに,検定結果の記述では,「『自然派』は有意に過半数を超えている」という対立仮説がむしろ強調される。そのときに標本比率が7割であれば,「『自然派』は過半数をかなり超えている」といった,程度を表わすニュアンスが伝えられてしまう危険性がある。
 検定結果には改めて記述されないが,そこで問題にされるのはあくまで帰無仮説であり,それがいかに小さい有意水準で棄却されたとしても,「π=0.5」という仮説が棄却されるのであって,「π=0.51」かもしれないし,また,「π=0.8」かもしれない。ちなみに,ここで利用した20件のサンプルデータ(図表6-1)に関しては,千葉県の168件のデータから無作為に選んだものであるが,その全体の有効回答数166件の内,「自然派」は112件の67.5%を占めている。サンプルデータは,たまたま,その母集団に近い結果を示しているのであるが,これがいつもそうであるとはいえない。通常は,そうした母数の大きさそのものについては,検定は何ら具体的な情報を与えてくれるわけではない。
たとえば,標本サイズを大きくしさえすれば,帰無仮説からのズレが小さくても,有意確率は十分小さくなり得るのである。
 では,母比率を具体的な値に限定できるような検定方法はないのだろうか。たとえば,帰無仮説に「『自然派』の割合は5割ではない」,対立仮説に「『自然派』の割合は5割」と,逆に仮説を設定できれば,より小さい有意水準でその帰無仮説が棄却されることによって,より確かに母比率の値を「5割」と推定することができるのではないかと考えられる。しかし,帰無仮説と対立仮説の設定を逆にすることは,実質的にはほとんど不可能である。母集団分布がある一つの形に仮定されて,はじめて具体的な標本分布を導出することができるのであって,帰無仮説が母数に関する無限の値を含む範囲で与えられては,標本分布を特定できなくなるからである。
 一方,「『自然派』が5割」という帰無仮説が棄却されなかったとしても,母比率が5割であると積極的にいうことはできない。「逆,かならずしも真ならず」であり,対立仮説を採用する背景には,論理学でいうところの「対偶」に相当する考え方がある。あくまで確率的な判定が行われるので,論理学がそのままあてはまるわけではないが,「A:帰無仮説が正しい」ならば「B:有意確率(p)>有意水準(α)」という命題(A→B)に対して,「¬B(引用者註:原文では文字にバー。以下同様):有意確率<有意水準」ならば「¬A:帰無仮説は正しくない」という対偶に相当する結論(¬B→¬A)が導かれるのであって,「B:有意確率>有意水準」ならば「A:帰無仮説が正しい」とは結論(B→A)できないのである。
 統計的検定では,基本的に,帰無仮説を「棄却できる」か,「棄却できないか」の判定がなされるのであって,その言及可能な範囲を常に念頭において結果の解釈を進めていく必要がある。なお,母数の値に関する具体的な推定を試みたいという場合には,区間推定の方法などが利用されている。
岩永雅也・大塚雄作・高橋一男[編著]『社会調査の基礎('01)』P146-168

つまり、有意確率が小さじからといって、それが即「帰無仮説からの離れ具合が大きい」とは言えない、という事ですね。差が小さくても、サンプルサイズを大きくすれば有意確率は小さくなり得る、と。
あくまで検定は、帰無仮説が棄却されたかどうかの判断しかされない、という事ですね。
これはかなり重要な事ですが、必ずしも統計の本に載っているとは限らない部分なので、少々長いですが、紹介してみました。

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※↑は2003年版

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2011年11月24日 (木)

文系理系では無くて

そういう事じゃあ無くて、定量的・計量的な視座があるか否か、だと思いますよ。

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2011年11月23日 (水)

「当てはめる」――寺田寅彦の名文

読みませう⇒寺田寅彦 物質群として見た動物群

約80年前の文ですが、その内容は全く古くなっていません。

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2011年11月22日 (火)

勘所――豊田秀樹『調査法講義』

調査法講義 (シリーズ「調査の科学」)Book調査法講義 (シリーズ「調査の科学」)

著者:豊田 秀樹
販売元:朝倉書店
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この本も必読でしょうね。

構成としては、調査とはどういうものか、という一般論から始まり、社会調査的な部分について解説があり、その後に確率・統計の説明を行う、というもの。
1章で、いかにも尤もらしそうな主張を「トリック」として紹介し、それについて調査論的にどのような反論が出来るか、というのを書いているのですが、この部分はものすごく重要だし、参考になるでしょう。その内のいくつかを紹介してみましょう。※以下、豊田秀樹『調査法講義』の1章より引用。

自動車事故の現場の状況を正確に調べると「120キロ以上で走っていた車が事故を起こすケースは非常に少ない」ということがわかる.それ以下のスピードで走っていた車の事故の件数の方がずっと多い.それはブレーキに頼らずに,ハンドリングに集中できるためであり,ゆえにスピード違反は危険な行為ではない.

航空機と自動車とどちらが安全か比較してみよう.航空機は1億キロ飛んで平均的に1人事故死し,自動車は5千万キロ走ると平均的に1人事故死しているというデータがあったならば,航空機の方が2倍安全といえる.

さて、これらの主張にいかなる反論が出来るでしょうか。

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この本、他の豊田氏の本の例に漏れず、「堅実で厳密」な書き方です。実に手堅い。で、教科書風でもありますから、必ずしも取っ付きやすいものでは無いと思います。それと、読者として高校の数学を勉強していない人を想定していると書いてありますが、ここはどう考えても納得がいかない所(Amazonの書評にもある)。確かに微積分や線形代数を駆使していたりする訳では無い(ので、範囲としては高度では無い)けれども、書かれてある事がすんなり出来るならば、多分その人はかなり数学が好きでよく勉強しているだろう、というような感じがします。
とは言え、説明中に、類書にはあまり無いような視点からのものがあったり、証明や導出が比較的丁寧になされていますから、全体的に堅実な書き方と併せて、じっくり勉強したい人には良いと思います(全く勉強した事が無い、という人は、序盤以降は読めるものでは無いはず)。ああ、そこはこういう事か、という説明も結構あります。信頼区間や検定の話でも、ちゃんと注意が書かれていたり(信頼区間の意味や、有意確率が小さいのは差の大きさを即意味しない事など)。

調査法に関するエッセンスがコンパクトにまとめられている本として、お勧めの逸品です。

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