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2011年11月22日 (火)

勘所――豊田秀樹『調査法講義』

調査法講義 (シリーズ「調査の科学」)Book調査法講義 (シリーズ「調査の科学」)

著者:豊田 秀樹
販売元:朝倉書店
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この本も必読でしょうね。

構成としては、調査とはどういうものか、という一般論から始まり、社会調査的な部分について解説があり、その後に確率・統計の説明を行う、というもの。
1章で、いかにも尤もらしそうな主張を「トリック」として紹介し、それについて調査論的にどのような反論が出来るか、というのを書いているのですが、この部分はものすごく重要だし、参考になるでしょう。その内のいくつかを紹介してみましょう。※以下、豊田秀樹『調査法講義』の1章より引用。

自動車事故の現場の状況を正確に調べると「120キロ以上で走っていた車が事故を起こすケースは非常に少ない」ということがわかる.それ以下のスピードで走っていた車の事故の件数の方がずっと多い.それはブレーキに頼らずに,ハンドリングに集中できるためであり,ゆえにスピード違反は危険な行為ではない.

航空機と自動車とどちらが安全か比較してみよう.航空機は1億キロ飛んで平均的に1人事故死し,自動車は5千万キロ走ると平均的に1人事故死しているというデータがあったならば,航空機の方が2倍安全といえる.

さて、これらの主張にいかなる反論が出来るでしょうか。

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この本、他の豊田氏の本の例に漏れず、「堅実で厳密」な書き方です。実に手堅い。で、教科書風でもありますから、必ずしも取っ付きやすいものでは無いと思います。それと、読者として高校の数学を勉強していない人を想定していると書いてありますが、ここはどう考えても納得がいかない所(Amazonの書評にもある)。確かに微積分や線形代数を駆使していたりする訳では無い(ので、範囲としては高度では無い)けれども、書かれてある事がすんなり出来るならば、多分その人はかなり数学が好きでよく勉強しているだろう、というような感じがします。
とは言え、説明中に、類書にはあまり無いような視点からのものがあったり、証明や導出が比較的丁寧になされていますから、全体的に堅実な書き方と併せて、じっくり勉強したい人には良いと思います(全く勉強した事が無い、という人は、序盤以降は読めるものでは無いはず)。ああ、そこはこういう事か、という説明も結構あります。信頼区間や検定の話でも、ちゃんと注意が書かれていたり(信頼区間の意味や、有意確率が小さいのは差の大きさを即意味しない事など)。

調査法に関するエッセンスがコンパクトにまとめられている本として、お勧めの逸品です。

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「科学論」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。YJSZKです。

> 読者として高校の数学を勉強していない人
> を想定していると書いてありますが、ここ
> はどう考えても納得がいかない…

ここは私も同感ですね。
この本の記述がすっと頭に入ってくる人は、仮に大学生とするなら、たぶん高校で数学に挫折せずに大学に入学した人、と言えると思いました。
高校で数学に挫折する人の場合、私の知る人では、「まずVとかEとか、ダメ。Σ?σ?吐き気!ゲロゲロっ」という状態で。

まぁ、中学や高校で、必修部分として確率・統計が復活ということで、期待したいところです。一抹の懸念とともに、ですが。

投稿: YJSZK | 2011年12月 9日 (金) 17:03

YJSZKさん、今日は。

豊田さんの本は、易しく書いた、と謳っていても、えー、てなる場合がしばしばですね。
別に紹介した『検定力分析入門』の方が内容的に解りやすいし直感的だと思いました。

▼ 引  用 ▼
まぁ、中学や高校で、必修部分として確率・統計が復活ということで、期待したいところです。一抹の懸念とともに、ですが。
▲ 引用終了 ▲
いかに重要さを認識させるか、ですね。必修でも勉強しない人(例:自分)は出るので……でも、分野として重視される事自体はとても良いと思います。

投稿: TAKESAN | 2011年12月 9日 (金) 17:13

こんにちは。YJSZKです。

> 分野として重視される事自体はとても良い

少し前ですが、統数研の公開講演会で渡辺美智子氏の発表 http://www.ism.ac.jp/kouenkai/2011summary.html#speaker3 を聴いたのですが、それによると「分野として重視される」というのは世界的な傾向のようですね。

ま、当然、ですよね。本っ当に大事ですから。
私は、ナイーブだと言われるかもしれませんが、「社会を構成する皆が今より(たとえ僅かでも)統計的な知識が増えたなら、世界は変わる、かなり良くなる」と考えてます。
過去の事例で言えば、少なくとも水俣病の悲劇は避けられたはず、と。

投稿: YJSZK | 2011年12月 9日 (金) 21:35

確率統計の重要さは、いくら強調してもし過ぎるという事は無い、というくらいだと思っています。

特に、渡辺氏の文の最後の段落が大切だと思いました。
しかも現状の日本は、放射線被曝のリスクなどとも向きあう必要がある訳ですよね。そこでは確率的な思考は必須ですから、本当に「やらなくてはいけない」と。

ところで、今ニュートンムックの『確率に強くなる』を読んでいますが、なかなか良い感じかも知れません。

投稿: TAKESAN | 2011年12月 9日 (金) 21:58

ちなみに。

上で紹介したニュートンムックですが。
リチャード・デュレット氏へのインタビューが大変に面白いです。

投稿: TAKESAN | 2011年12月10日 (土) 16:28

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