クリティカルな思考の一例
今日はお昼休みに東京のテレビ局から電話がありました。所ジョージの「目が点」とかっていう番組があるのですか? もしかしたら、「メガ天」かも。「遊園地の研究をされているそうですね?」ときくので、「いいえ、していません」と答えましたが、とても礼儀正しい人だったので、「どうして、絶叫マシンは女性に人気があるのか?」という質問に、心理学的および力学的な観点から2分ほどレクチャしてさしあげました(笑)。概略は以下のようにサマライズされます。 1)そもそも、適度に恐怖を感じる人が乗って「面白い、また乗ろう」と思う。怖くない人と、もの凄く怖い人は、乗らない傾向にある。 2)女性は泣き叫ぶことができるが男性は社会的に泣いたり叫んだりしにくい。したがって、1)のうち凄く怖い人の閾値が男性の場合は多少低くなる。 3)基本的に体重の軽い人の方が加速度には強い(F1ドライバが良い例)ので、女性は男性よりも平均的には酔わないはずである。 4)しかし、過激なスポーツや乗り物には、男性の方が慣れている現実があって、女性の方が加速度に新鮮さを感じる傾向にはあるだろう。 5)ところで、女性に人気があるというデータは本当なのか?>「え、違いますか?」とディレクタ氏。 森博嗣『ウェブ日記レプリカの使途』P148 ※下線・強調は原文ママ。註釈やふり仮名は省略した
もちろん、どこに最も着目すべきか、はお判りですね?
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以下、無粋にも、この文を分析的に見てみます。興味の無い方は飛ばして下さい。
森さんとしては、女性がより(つまり平均的に)ジェットコースターを好む事のメカニズムについて、いくつかの観点から重要と思われるものをピックアップした訳ですね。
まず、全然怖く無いと感ずる人とあまりにも怖い人とは、ジェットコースターにはそもそも乗らないであろう、とする。これは心理的な観点。
そして、女性は泣き叫ぶ事が出来る。ここを細かく考えれば、「女性は、周りで人が見ている中でも泣いたり叫んだりする事が許容される傾向にある」という見方。いわゆるジェンダーバイアス(やジェンダーステレオタイプ)が形成されている部分に注目。これは社会心理学的な観点。
そう前提するならば、乗ってから泣いたり叫んだりする事が憚られる(社会的な拘束として)男性よりも、女性の方が乗りやすい(物理的で無く心理的に)であろう、と推測出来る。
また、物理学(より詳しくは、バイオメカニクスや生理学も含む)的観点から言えば、軽体重な人の方が加速度には強い。従って、体重の軽い傾向にある女性(これは統計的にはっきりしている事)がより酔いにくいと考えられる。
ただし、「女性に人気がある」という前提がそもそも正しいとすればそれらの推論が成り立つ可能性があるという事だけどね。
とこういった感じでしょう。もちろんミソは、最後。つまり、そもそも女性がジェットコースター好きな傾向にある、という前提は本当なのか、という所。これが成り立っていなければ、それまでのいくつかの推論がほとんど意味の無いものになる、というのを強調している訳ですね。そこまでの分析で、読む人になるほど、と思わせつつ、最後にオチをつけている。ここら辺が実に上手く、森さんらしいな、といった所です。
さてここで、ではその前提、女性の方がよりジェットコースター好きである、というのが成り立っていたとすれば、と考えてみるとどうでしょう。その場合、よりクリティカルに見る事が肝要。
当然、森さんが挙げた色々の条件がそもそも成り立っているのか、というのを確認する必要があります。観点としては、社会心理学、力学、生理学、統計学(これはそれぞれの分野に関わる)などがあるので、それぞれの分野の知識に基づき、どの程度「確かめられている」のかを見る。
そして、「女性がジェットコースターを好む(これ自体は統計的に見出されるべきもの)」という現象について、どの条件がどの程度「効いている」のか、と問う。物理的・生理的・社会的 といった色々の条件が絡み合って現象を成しているので、それを解きほぐし、どれ(因子)がより強く関わっているのかを解明する、という事です。
このように、日常的に出てくるような疑問についても、それを本当に解明するには、様々な観点から証拠を集めて、「それは本当か」と常にクリティカルに考えながら論を立てていくのが重要と言える訳ですね。
| ウェブ日記レプリカの使途 (I say essay everyday)
著者:森 博嗣 |
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