有意
これは何度も書いていますが。
「有意」という言葉を使いつつ、実は統計学の本を一冊も読んでいない、みたいな事は無い方が良いですね。統計の本を読んで勉強していないなら、そもそもその言葉は使わないのが無難です。
確実に、「有意」の語に対して、統計学的な意味以外の意味を付与して用いている人がいます。つまり、「科学的に決定的な証拠」みたいな、重要だけと抽象的な感じで捉える、とか。詳しくは解らないが、そうなれば決定的なのだろう、と考えるとか。何故そういう人がいる事が確実か、と言うと、かつて自分が曖昧な理解のままそんな使い方をしていたからです。
そもそも科学の話という文脈なので、「有意」とは統計学的な概念として限定して用いなければなりません。にも拘わらず、辞書的な意味に引きずられて(辞書的には非常に抽象的な意味)、あるいは字面から何となく解釈して、それを「科学の話に持ち込んで」しまっていませんか?
統計的検定における「有意」とは、母集団と標本、帰無仮説、検定統計量、有意水準の設定、などの概念を理解しておかないと適切に使いようが無い言葉です。しかも、そういう基本的な所を理解していてさえ、その解釈については統計学的な色々な議論があるので、注意深く用いなくてはならないものなのです。
単に、「○○と△△を比較したら有意差があった(無かった)。」という話が出てくるだけでは、その「有意」という語はあまり有用な情報をもたらしません。実験のデザインはどうだったか、どのような統計解析を用いたか、などと併せて検討しないと何の意味も無い訳です。この解析法では有意にならなかった、でも別の方法だと有意になる、なんて話もあります。これとこれを比較するのにどうしてこの解析を行ったのか、みたいな議論も出てきます。多重比較の問題もあります。
何となくで「有意」の語を用いている人は、一度、周りの人に「有意って何ですか?」と質問される事でも想定してみて下さい。どのくらい解っていてどこが理解不足なのか……と考えられるのはまだ良くて、「そういえばちゃんとした意味は全く解っていない」となったりするのは話になりません。せめて、「帰無仮説」の語や意味を押さえておくくらいで無いと、使っちゃいけないと思います。
お前は充分に説明出来るのか、と問われれば、まだきっちりと理解しているとは残念ながら言えませんが、少なくとも、統計的仮説検定の手順や、それぞれの概念の意味と関係くらいは解説出来ます。それは前提で、その上で、数理的な部分を厳密に理解するのが望ましいのでしょうが、悔しい事に、そこには至っていません。ここは精進のしどころです。
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著者:大村 平 |
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コメント
こっそり。
三中さんの講義の様子がYouTubeで公開されてます。
http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/R/R-top.html
投稿: TAKESAN | 2011年11月 7日 (月) 09:08