花澤香菜氏による標本調査論的批判的思考の一例
昨日、WEBラジオを聴いていた所、日笠陽子氏と花澤香菜氏による興味深い会話が耳に入ってきた。
TVアニメもしドラ 「程高放送部~もしドラジオ~」 - ウェブラジオ - アニメイトTV
※2011年8月15日配信分
以下、その会話部分を文字起こししてみよう。
※2:30あたりから
※以下では、発言者として、日笠陽子氏を「日」 花澤香菜氏を「花」で示す
日:「8月15日誕生日の人多いんだよ。」 花:「えっ? なんでー?」 日:「…なんでって言われたら…(一同笑い)…それはーもうなんか、なんだろう、天からの授かりものなんで、ちょっと、それはちょっとよく……」 花:「(食い気味に)え。それは統計をとったのひよっちが? ※”ひよっち”とは日笠氏の愛称である」 日:「いやー、なんか、知り合いの人がわりかし、”わたし8月15日なんだよねー、たんじょうびぃ”みたいなこと…」 花:「(食い気味に)えーそういうことー!?」 日:「(笑)」 花:「なにその情報ー。ひよっちの周りに8月15日が多いってだけじゃんー。 ※”ひよっち”とは日笠氏の愛称である」 日:「15・16日は多いですね。」
以上のように、何気ないような会話であるが、実はここには、いわゆる標本調査論的に見て実に興味深い論点が隠されているのである。それを読み解いてみよう。
まず日笠氏は、8月15日が誕生日の人が多い、と発言した。このような主張は、どうもそうらしい、というような意味合いでなされたものだから、「言及の対象」としては、かなり広い範囲を想定しているだろう。即ち、解りやすい所で言えば、「日本人全体」といった具合である。
その主張に対し花澤氏は、「なんで?」と返す。それまで知識として所有していなかった情報であったのだろうから、そう問い返す事は当然であろう。そこで日笠氏は、返答に詰まる。おそらく、改めて言われてみると、特にその事を支持する証拠が思いつかなかったに違いない。
そこで花澤氏はすかさず(まさにすかさず)、「統計をとったの」かと訊いた。これは実にクリティカルな質問だ。つまり、日笠氏の主張を支持する明確な証拠はあるのか、という核心について問うたのである。それは、日笠氏が自身で統計を取った上での見解なのか、と。
すると、然しもの日笠氏も苦しくなってくる。素早く脳内を検索し、持論を支持するであろう証拠を探し出してこなくてはならない。そしてその結果提出したのが、「知り合いに多い」から、というものであった。
しかし花澤氏は、日笠氏の論の隙を見逃さなかった。つまり、日笠氏の提出した証拠、「日笠氏の周りに8月15日生まれが多い」という事が、一般に「8月15日が誕生日の人が多い」という命題を支持するには弱いのをすかさず把握したのだ。これは、ある「全体」を考えた場合、その全体について、日笠氏が観察し得た「部分」の結果から「過度に一般化」してものを言ってしまった事を、見事に看破したのを意味する。
いかがであろうか。この会話で見せた花澤氏の認識は、実にクリティカルなものであった。日笠氏の主張について充分な(統計などの)「証拠」はあるかと問い、個人の観察結果を示されて、それが「偏った標本」による、対象にしている人々、つまり「母集団」への「過度の一般化」である事を見抜いたのだ。
この話を見て、いや、そんなやり取り、普通にあるじゃないか、などと思われる方もあるであろう。確かに、同様のやり取りはしばしばなされる。特に、「自分が知らない事」の場合には、相手との関係性にもよるが、「それってホント?」と疑問に思い、話を聞いて、「いや、それって個人の経験だけじゃん。」となる。
しかしながら、そのような「疑い」の目で見る事を疎かにしてしまう場合もよくあるのだ。たとえば、「□型の人って○○な人が多いよねー。」といった、血液型と性格を結びつける意見。あるいは、「理系/文系の人って××だよねえ。」などといった見方。
どうだろう。あなたはそういう風な見方を、日笠氏と同じような根拠に基づいて、つまり、「個人の数例の経験」を一般化して主張してはいないだろうか。これは、日笠氏による過度の一般化と同型である。日笠氏が、日本に住むたくさんの人々の「8月15日が誕生日の人の割合が多い」という言明を行った。即ち、知り合いの数例をもって一般化してしまったように、日本に住む(別に他の大規模な集団を設定しても構わない)「□型の人が○○である事が多い」という言明を、見聞きした数例の結果をもって一般化する、という事なのであるから。
今回、実に鋭いクリティカル・シンキングを見せてくれた花澤氏も、もしかすると、他の場面ではついうっかり一般化してしまう、という事もあるだろう。「話題によって」クリティカルな見方が鈍る、というのもよくある事なのだ。「好き嫌い」や「拘り」によって認識力が曇らされてしまう。
そういう事の無いように、常に自分の「ものの見方」というものについて、よく機能しているかをモニタしておきたいものである(・ω<)
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