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2011年1月25日 (火)

論宅さんの混乱

論宅さんのエントリー、偽薬効果を前提にしたニセ科学批判はニセ科学である。 を読みました。色々誤解やら混乱やらがあるように見受けられますので、指摘いたします。

 偽薬効果とは、偽薬であっても、本当に効く薬や治療法だと患者が思い込めば、一時的に本当に病気が改善するという効果である。

プラセボおよびプラセボ効果の概念の説明を、『シリーズ治験』:プラセボ効果のメカニズム(第1回) - 幻想第一 より引用します。※リンクなどははずした。強調は引用者による。以下同様

治験業務にまつわるガイドラインを策定する「日米EU三極医薬品規制調和国際会議(以下、ICHと略する。)」はプラセボを、「色、重さ、味及び匂いといった物理的特性を可能な限り被験薬に似せた、試験薬を含まない「ダミー」の治療」*1と明記し、「プラセボ効果」についても、「薬を使用していると考えることによって被験者に改善が見られること」と明確に定義しています*2。

プラセボとは要するに、確かめたい対象などに似せたものです。狭義には薬剤の試験に用いられる物体を指すでしょうし、もう少し広げると、シャム手術なども「プラセボ」と言われる場合もあるでしょう。「プラセボ効果」は、それらが与えられると認知する事による改善、という事ですね。※具合が悪くなるのをプラセボ効果に含める事もあるし、それを特に「ノセボ効果」と呼ぶ場合もある。参考に⇒プラセボフォルダ開放: Interdisciplinary

論宅さんが「一時的」と書いてあるのは、どこからそれが出てきたのか解りませんが、現象の記述としては、この部分のみで見るとそんなにおかしいものでも無いようです。

心理学でいうピグマリオン効果や社会学でいう予言の自己成就と似ているのである。つまり、ウソが本当をつくりだす現象である。このような現象は、意味システムである心理現象や社会現象のみで可能であると考えていたが、生命体システムにも起こりうる現象であるというのが興味深い。

「ウソが本当をつくりだす」という表現には何となくの違和感を覚えますが、それはともかく、心理現象を「意味システム」とし、「生命体システム」と切り離して論じているのはよく解りません。後、そんなにピグマリオン効果に似てますかね?

 言葉の意味内容が物質的世界たる身体に影響を与えるというのは、ある意味、神秘的であり、スピリチュアルである。言葉(意味付与作用)が物質世界たる身体に影響を与えるという因果関係を認めてしまえば、これまでの科学的知識を否定することになり、ニセ科学になっしまうのだろうか?※原文ママ

それは、勝手に因果関係を短絡させて考えるからで。与えられた行為について意味を認知し、それが身体的な反応をも齎す事がある、というのは、特に心理学的な論理に反する訳でも無いでしょう。というか、水伝さえもが、量子力学だの水の記憶だのを援用して物質科学的なメカニズムで説明をつけようとしている(そして失敗している)訳で、科学に絡めて現象の理路をそこまで単純化して論じている人自体があまり思いつきません。

 言葉の世界の出来事が身体現象に影響を与える偽薬効果という現象を認めることは、かえって非科学的ではないだろうか?偽薬効果のメカニズムに科学的根拠がないのなら、偽薬効果を認めることは非科学的である。科学的に完全に解明されていない偽薬効果こそが神秘的なのであり、その神秘的現象に基づいてホメオパシーを否定することで、かえって自らが非科学的になっているのである。

ここに関しては、

  • プラセボ効果は再現的に認められている現象である事。
  • 現象の説明として、必ずしもメカニズムが解明されている概念を用いなくとも構わない事。
  • ホメオパシーに効果が無いとは即ち、「レメディに効果が無い」という事。
  • レメディに効果が無いという事は、「レメディはプラセボに等しい(プラセボにしかならない)」という事。
  • ホメオパシーは、レメディが効くと称して与える体系なのだから、ホメオパシー全体として見て、そのアプローチで改善があったとしても、それは「プラセボ効果でしか無い」と言える事。

これらについて思いを馳せて頂くと良いでしょう。ここを踏まえるならば、

 ニセ科学批判者が、ホメオパシーは偽薬効果しかないとして批判することは、非科学的なことである。むしろ、ホメオパシーには、偽薬効果も治療効果もどちらもないという批判が純粋科学主義による批判なのである。ニセ科学批判者たちには、徹底せよと言いたい。

この批判は当たりません。ホメオパシーに対する批判は、効果らしきものが観察されたとしてもそれはプラセボ効果でしか無いであろう、という論ですし(レメディがプラセボに等しいから)、そもそも、調べたいものとプラセボとを与えた群、そして無介入の群を較べる事があるのは、無介入による自然変動とプラセボを与えた場合との差を見たいから、というのもある訳です(無介入の対照を心理学などで特に「統制群」と呼ぶ事もある)。それから、ホメオパシーのセッション部分に何らかの意味があった事を示唆する研究を、kumicitさんが紹介しています⇒忘却からの帰還: ホメオパシーは効く。ただしレメディではなく会話が。

 それは、偽薬効果が、言葉の意味内容→感情的反応→神経系・ホルモン系の反応→自然治癒力の向上→症状の改善というプロセスからなるという仮説である。さらに、多少の改善の兆候の認識によって、さらなるプラスの感情的反応が起こり、それ以下の過程もプラスになっていくと考えられる。例えば、偽薬を使用して少し改善したところで、周囲の人たちが偽薬の効き目が出て来ていると、集合的評価をすることで、益々偽薬への信じ込みによるプラスの感情が起こり、症状が好転するのである。偽薬効果においては、このようなプラスの循環をつくる社会心理的過程が重要なのである。

ご自分でメカニズムに関して仮定を置いて論じておられるではありませんか。その現象は「神秘的」であり「スピリチュアル」であったのでは? 要するにこれは、論宅さんが、ご自分では現象のメカニズムについて理論的に考察出来ているが他者はそうで無い、と思っておられるから書けるものなのでしょう。

ここで、「そのような事は既に考えられている」という論拠を示しましょう。

このように、既に心理学的な論理が想定され、そのアプローチによる研究がある訳です。そもそも、Wikipediaの「偽薬」の所にすら簡潔に触れられているのを、論宅さんはご存知無いのでしょう。

 偽薬を単独に取り出して分析するだけでは不十分で、偽薬を演出する治療共同体のコミュニケーション過程による患者の感情的反応の分析こそが必要なのである。偽薬効果には、このような社会心理過程が介在していることを忘れてはならないのである。

(強調と下線は私がつけました。)えっと、「偽薬効果には」と、現象の成立を前提しているではありませんか。「社会心理過程が介在」については、それをこそ専門家は研究している、という話です。研究が妥当かは別議論なので措くとして、そういうアプローチをしているものはいくつもあります。たとえば、プラセボと共に提示された「値段」の情報が与える影響であるとか、プラセボと教えて与えるのに改善されるのを示唆したもの、など。※念を押すと、ここでは、そういう方向からのアプローチの例として紹介。研究デザインの評価は措く

 ただ、科学を信じていない患者には、お守りなどのスピリチュアルなもののほうが偽薬効果はあると思われる。

理論的には充分あり得ます。それを「プラセボ効果」と呼べるかはともかくとして。というか、やはり現象の存在は前提としているのですね。という事は、

 以上のような心理・身体過程は、まだ科学的に十分に解明されていないわけであり、仮説にしかすぎないが、この仮説でもって他者を批判すること、すなわち偽薬効果でもってニセ科学批判をすることは、非科学的である。時折、ニセ科学批判者は仮説を科学的真理と思い込み、他者を批判するので要注意である。

やはりメカニズムが明らかで無いから批判者はおかしい、と主張されたいのでしょう。もちろん論点は違います。ホメオパシーへの批判は、レメディがプラセボでしか無い、だからホメオパシー全体を見れば、何かあってもそれはプラセボ効果だけだ、というものですし(レメディ以外の部分がどのくらいの強さで影響するかは批判自体には関係無い)、そこで論宅さんが言われている「仮説」というのは、「プラセボ効果のメカニズムに関する仮説」であって、プラセボ効果とされる現象が存在する事にかかっている訳では無いでしょう。とするとやはり論点が違います。

再び引くと、先に紹介したブログ 『シリーズ治験』:プラセボ効果のメカニズム(第1回) - 幻想第一 でも、

 治験業務にまつわるガイドラインを策定する「日米EU三極医薬品規制調和国際会議(以下、ICHと略する。)」はプラセボを、「色、重さ、味及び匂いといった物理的特性を可能な限り被験薬に似せた、試験薬を含まない「ダミー」の治療」*1と明記し、「プラセボ効果」についても、「薬を使用していると考えることによって被験者に改善が見られること」と明確に定義しています*2。

このことから、新薬開発の現場においてプラセボは、それなりの治療効果を持つものとして公式に認められていることが分かります。

こう書かれています。レメディはプラセボである、ホメオパシーにはプラセボ効果しか無い、ホメオパシーはプラセボ効果だ、等のそれぞれの表現をして、特に問題は無いでしょう。(最後はちょっと変ですが)ホメオパシーのセッション部分のここがこう心理社会的に作用している、と言い切って説明するのならともかく。

 さて、ニセ科学批判者には次のように考える者もいる。
 ホメオパシーは、希釈によって物理的に身体に影響を与える可能性がほとんどないので、物理的因果関係がなく、偽薬効果しかないが、一方、鍼灸、漢方薬、指圧などの東洋医学は、直接的に物理的身体に影響を与えており、科学的根拠が解明される余地があるので、偽薬効果だけではないというのである。従って、ホメオパシーと東洋医学を同列に扱ってはならないというわけである。

レメディは「効果が無い事が判った」ものです。当然、対象の機序に関して、科学の知見から「尤もらしそう」かどうか、が考えられる事はありますが、それを措いても「効果があるか否か」が臨床的に確かめられるかどうかが肝要です。ホメオパシー(レメディ)は、メカニズムとして有り得そうにない+実際に効果が無いと判った という事を考え合わせて、他の伝統的な療法と同列に扱う訳にはいかない、となるのです。それから、「偽薬効果だけではないというのである。」は誤りです。偽薬効果しか無いかどうかは、「確かめなければ判らない」のです。※私は、伝統的な療法だろうが何だろうが、効かないと判明したものは排除していくべき、という立場なので。他のCAMにしても、今医療に含まれているものでも、例外は無い

そして、

 科学的根拠が解明される余地は、物理的な直接的接触によって区別されるかどうかは、議論が起こることであろう。

ここから始まる部分も的を外しています。

 もし物理的な直接的接触のみが科学的である条件ならば、臨床心理学における心理療法などは非科学的だとして全て否定されることになるのである。

前提が誤っているので、ここなども当を得ません。飛躍しています。if が大きく誤っていればその後の論を意味あるものとして扱うに値しない、という好例と言えます。※それ以前に、効果研究が臨床心理学方面でも盛んに行われているのをまず知るべきでしょう。(『エビデンス臨床心理学』など)

 身体現象に影響を与える心理的はたらきかけは、全て偽薬効果と同じメカニズム(因果経路)をもつということを臨床心理士たちに公言して欲しいものである。いずれ臨床心理学は、精神分析学と同様に、ニセ科学として魔女狩りされる運命にあるのである。その危機感をもつ臨床心理士はまだ少ない。精神病棟に多くの臨床心理士が勤務しているが、ニセ科学批判者によって、心理療法が偽薬効果として断罪され、精神科医による投薬治療のみが生き残るのである。

非常に混乱しておられるようです。心理療法的アプローチと、プラセボが与えられる→改善される という現象とが部分的に同様のメカニズムを持つと考えられるからといって、「心理療法が偽薬効果」とはならないのは、先に挙げたプラセボ効果の定義からも明らかでしょう。尤も、心理療法はプラセボ、という言い回しもたまに見かけますが、それはもう、言葉の用い方が乱暴と言わざるを得ないでしょうね。※心理療法を批判する人は確かにいるでしょうし、心理療法の特異的効果を切り分けて評価出来るデザインの難しさもあるでしょうけれど、それはまた別の文脈です

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コメント

「科学では全くない」+「科学を完全に偽造している」という両方を満たして
初めて「真っ黒だ」と言うことが正当化されるんですよ。

前者だけでは駄目なのに、前者だけを取り出して「真っ黒だ」と断定しようと
するところが「ニセ科学『批判【派】』」は全く駄目ですよね。

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安西「特別刑法7」P243
刑法の偽造・変造と本法の模造とは、
前者が一般人において通常の注意力をもってしでも真正なものと誤認する程度に達した外観を具えたものを作出することをいうのに対し、
後者がその程度にまで至らない、すなわち、一般人が通常の注意力を働かせれば真正でないことに気付くような外観のものを作出することをいう点が異なる。
誰が見ても直ちに本物との差異を容易に発見できるほど玩具的な(俗にいう「チャチ」な〉ものを製作するのは、模造にも当たらない。
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投稿: jひうひうひうい | 2015年3月 1日 (日) 11:54

【(本物の)ニセ科学】=「偽造」=「騙されても当たり前のレベル」=【捏造】
【模擬科学】=「模造、玩具」=「うっかりしていると騙されるかもね、くらいのレベル」=【(ニセ科学批判派の言うところの)ニセ科学】

投稿: hじぽjpj | 2015年3月 1日 (日) 14:58

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merca論宅氏の偽薬効果を前提にしたニセ科学批判はニセ科学である。と云うエントリがひさしぶりに注目を浴びていて、TAKESANさんが論宅さんの混乱と云うエントリをお書きになっていたりもしていて。 ... [続きを読む]

受信: 2011年1月25日 (火) 22:16

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