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2009年4月12日 (日)

没った

※このエントリー、剣術について書いています。真剣をもって斬る、というのを主題にしているので、そういう話を好まない方は、読まない方がよろしいと思います。

とある武術ネタを書こうと思ったのだけれど、自分に知識が無さ過ぎて断念。

ちなみにそのネタは。

「時代劇で見るような袈裟斬りが実際に可能であるか」

というテーマ。

時代劇でよく、肩口から逆側の腰辺りにかけてバッサリ斬って捨てる、という描写がありますよね。それです。

え、何が問題なの、と思われたかも知れませんね。どこに疑問があるの、と。

えっと、その場面を想像しながら、ちょっとよく考えてみて下さい。

ほぼ正面から向き合って、相手の身体を、肩から逆の腰にかけて、斜めに斬っていく訳ですね。

もっと具体的に考えます。

ほぼ正対して、間合いは大体中間ですね。あまり近付き過ぎずに斬りつける、というシチュエーション。

そうすると、剣先の方で斬っていく、となります。

で、剣先の軌道を考えると、それは曲線を描きますね。という事は、この現象を別の言葉で表現すると、細長い刃物の先の部分で、相手の身体を広く(長く)斬る、と言えます。

つまり、かなり長い刃物の先で、筋肉や骨の塊である人体を斬る。って事は、直感的にも、ものすごい負担がかかる、のが解りますよね。

多分、剣先は円弧に近い軌道を描くと思うのですが、そうだとすると、剣を振って斬っていくとなると、「段々身体に深く入り込みつつ刃が進行していく」、と言えます。

としますと、恐らく、「剣は途中で止まる」のが、実際に起こる事だ、と推測出来ます。途中、鎖骨・肋骨・胸骨 等の骨格に当たる訳で、それを切断しつつ腰まで到達させて剣を振り下ろす、というのは、力学的に非常に困難なのではないか、そう考えたのです。力学的に、というのは当然、日本刀にかかる負担と、剣を運用する筋肉への負担の両方がありますね。仮に、日本刀が構造上そういう使い方に耐えられるとしても、肉体が刀を充分運動せしめるほどの働きをする事が可能であるか、と。

で、これを前提として、時代劇で見るような描写をどう解釈出来るか。

一つは、「斬りが浅い」と考える。

つまり、剣先を、「身体を掠めるように」斬っていく、という事ですね。

ただ、それはシチュエーションとしては、結構考えにくい。だって、殺す気満々なのですからね。わざわざ皮だけ斬るような事を、するはずが無い。それと、上にも書いたように、剣先は曲線を描くのですから、深く入り込まず、かつ傷を長くつけるような斬り方をするには、わざわざ「剣先を前後にコントロールしながら斬る」必要がある。ちょっとでも深く入ると、止まっちゃうのですしね。

もう一つは、「思い切り振り下ろしているが、実は肩口の辺りを切っているだけ」。

つまり、肩口を斬って、引きながら振り下ろす訳ですね。そうすれば、さほど負担もかからないでしょう。

その場合には、そんな中途半端な技をする必要があるのか、という話になります。他に動き方があるだろうし、逆に隙が生れる可能性もある。

それと、相手の傷口を見るのも大切ですね。肩から腰にかけて傷がついて、ビシャアアアッと血が迸り出る、なんて描写があったら、上のような斬り方では無い訳ですな。ちゃんと斬りつけている。だけどそうすると、一つ目のように、多分すごく難しい運動。

三つ目。「一つ目の運動が容易に出来るようなウルトラパウワーの持ち主だった」。

要するに、時代劇で描かれる武士の類は、斧か鉈のように刀を使い、バッサリ斬り下ろす事が出来る、と考える。

ここはどうなんでしょうねえ。刀をもって合理的に致命傷を与え、なるべく身体にも刀にも負担を与えないようにする、という目的を考えるならば、そんな乱暴な使い方はしないだろうと思うのですね。シグルイでもあるまいし。

で、最後に、私の考え。

「そもそもそんな斬り方はしなかった」

これです。

戦闘というシチュエーションで、反りを持ち鍔元まで刃を入れてある日本刀を運用していく場合に、剣の先10cm程度を使って中間から袈裟に斬る、というのは大変不合理に思います。※ここ、高岡英夫氏の論考を参照にした

だから、もし袈裟斬りのような技法を使うとしたら、時代劇で見られるような感じでは無く、恐らく、ごく密着して、「刃全体を当てるようにして、鍔元から引きずって斬っていく」のではないかと考えます。料理をする人に解りやすい喩えを用いると、「刺身を切るように」使う訳ですね。「撫で斬り」って言葉もありますですね。

だから、傍目だと、ほとんど「体当たり」のように見えるのではないかな、と。そこら辺を考えると、宮本武蔵の書(五輪書の水之巻)とも繋がってくるように思います。もちろん、通常は、正面から斬りつけるのは大変危険なので、そこは、受けの工夫が要るのでしょう。使えない時には使わなければ良いのですし。

とまあ、こんな感じです。この辺を、科学的に考えてみたいと思ったのですが、力学も工学も、バイオメカニクスも、全く知識が足りていないので、断念したのでした。

まあ、東郷重位のエピソードなんかもありますけどね。でも、それを平均的な操法とは見られないかな、という気も。そこら辺、流派性も関わってくるので、そんなに単純では無いでしょうけど。

もちろん、碁盤まで両断して床まで達した、というのを鵜呑みにしちゃならん訳ですが。比較的近い時代の示現流の剣士のエピソードも、どこかにあったような。それも、肩から胸の辺りまで切った、という感じだったかと。トンボの構えから脱力を効かせて激烈な斬り込みを行えば、相当の斬撃にはなろうかと思います。ただそれでも、時代劇で出るような、綺麗にバッサリ剣を振り抜ける、とはならないかな。

※一応

だからフィクションは云々、という事じゃ無いです。実際の使い方からするとどう考えられるかな、というものなので。ただ、「現実にあり得そうな」ものを描写したいという目的があるならば、ここら辺の考察・考証は重要でしょうね。特に実写では難しいと思いますけれども。

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コメント

>だから、傍目だと、ほとんど「体当たり」のように見えるのではないかな、と。
このように見える間合いを考えると、剣道の引き技の間合いに近いんですかねえ。
昔、胴の練習の時に先輩から言われたのは、下腹部を切って腸を引きずり出すイメージで胴を打てでした。

投稿: | 2009年4月12日 (日) 21:49

梨さん、今晩は。

実際に斬っていく事を考えるならば、中間から袈裟に振っていく、というのはむつかしいとは思います。推測を多分に含むので、理論的考察とかシミュレーションとかで確かめてみたい所ですけれども。

そのイメージは、生々しいだけに、効きそうですね。鍔元の方に意識をもっていけそう。

ちなみに、合気の剣には、動きの中で相手の腹を横一文字に斬るような動作があります。結構近い間合いです。たとえば、近づいて鍔迫り合いの間合いに入る際に腹を斬っていく、と。※合気の剣で、「鍔迫り合い」そのものをやらないので。近づいたら小手を捕ったりします
参照⇒http://www.youtube.com/watch?v=uo_-9PlYPYM

http://www.youtube.com/watch?v=VDntEH2plvA

間合いを長くとった場合は、小手や横面、首などの、少し斬れれば致命傷を負わせられる所を狙いますね。やはり、その方が合理的に思います。後、脇や内股。

投稿: TAKESAN | 2009年4月12日 (日) 23:14

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