対照的。そして「蛇足」
片や⇒ママまっすぐこっち向いて…横顔わからぬ5か月児(読売新聞) - Yahoo!ニュース
片や⇒赤ちゃん、8カ月までに横顔認識-中大・生理学研が確認:日刊工業新聞
同じトピックを紹介した記事なのに、味付けによってこれほど印象が変わるのだ、という一例。
研究は、脳画像診断によって、(8ヶ月児に対して)5ヶ月児はどうやら横顔を顔として認知はしないようだというのを生理学的に実証したもの。発達心理学的には、注視時間等を尺度として、乳児の認知を研究しますが、それの生理学的な部分が脳画像的に明らかになった、という事で、大変興味深いものです。
ここで、タイトルの比較。まず読売。
ママまっすぐこっち向いて…横顔わからぬ5か月児
いかにも情緒に訴えかけるような書き方。記事内容とも併せて、5ヶ月時では横顔は顔として認知されないから子育ての際には正面から見た方が良い、という印象を強く与えるようなものとなっています。
工業新聞。
赤ちゃん、8カ月までに横顔認識-中大・生理学研が確認
読売と全然違いますね。こちらは、5ヶ月児と8ヶ月児を比較して研究したのを踏まえて、5ヶ月から8ヶ月の間に横顔の顔認知が形成されるようだ、というのを説明しています。
次に、論文著者のコメントを紹介。読売から。
実験を行った同大の仲渡江美研究員らは「特に月齢の低い赤ちゃんとは、目と目を合わせて接することが大事だ」と話している。
工業新聞。
親子間でコミュニケーションを取る際「月齢の低い赤ちゃんには、正面を見て話すことが大事と示唆される」(中央大の仲渡江美研究員)という。
明らかに印象が違いますね。ちょっと詳しく解らないのですが、これって、各社の取材に答えたのでしょうか。
工業新聞の方は、科学者として、とても慎重な言い方ですよね。「大事と示唆される」という表現。当然、月齢の低い赤ちゃんが横顔を顔として認知しない可能性が生理学的に確認された、という事なので、それは愛着(attachment)の面から言っても、とても重要な現象である、というのは言えます。正面から向き合う頻度が発達に何らかの影響を及ぼす、というのは、理論的にも的外れなものでは無いでしょう。ですが、それはまた別の実証の文脈なので、「大事と示唆される」という言い方に留まる。従って、工業新聞の方の仲渡氏の発言は、うん、確かにそうですね、と科学的にも納得のいくものです。
で、読売の方。これは、タイトルとの相乗効果があるかも知れません。つまり、タイトルで、いかにも赤ん坊が「訴えかける」ような書き方をしていて、その印象のまま読めば、「え、この研究だけからそんな事が言えるの?」と感じてしまうかも知れません。また、冒頭で、
赤ちゃんを抱きながら、携帯電話などに夢中のパパやママはご用心--。
このような書き方をしていますからね。記事を面白くしようとしたのでしょうが、余計な部分とも言えるでしょう。
もちろん、実際に仲渡氏がどういう発言をしたか、というのも考えるべき所ですね。実際には慎重な物言いをしていたとしても、不本意な要約をされる、という可能性はあると思います。工業新聞の慎重な感じからすると、読売は若干不用意にも取れるので(タイトルなどでバイアスが掛かった、という可能性もあるけれど)。※プレスリリースのようなものが出た、というのも考えられますけれど、それにしては、内容が違い過ぎると思うので
それにしても、読売新聞の記事の書き方の微妙な事よ。せっかくの興味深い研究結果なので、あまり余計な味付けはしちゃいかんですよ。
参考資料
山口真美 研究室 -中央大学文学部 心理学研究室・科学技術振興機構 さきがけ
| 固定リンク
「メディア論」カテゴリの記事
- 茂木健一郎氏の世論調査観(2011.09.23)
- よく出てくる(2009.04.22)
- 暴挙(2009.04.11)
- ねじれている可能性(2009.03.21)
- 1割?(2009.03.18)
「科学論」カテゴリの記事
- メタスパイラル(2011.12.14)
- 主観、主観、ただ主観(2011.12.12)
- 公衆衛生(2011.12.07)
- ひとまずまとめ――患者調査において、「宮城県の一部地域及び福島県の全域について調査を行わない」事について(2011.12.06)
- 科学コミュニケーション――科学語での会話(2011.12.04)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
中央大学のプレスリリースにはこのように書かれていました。
http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/community/g06_02_detail_j.html?pr=72
(抜粋)
>近頃、片手に赤ちゃん、片手に携帯電話でメールをしているお母さんを見かけることがある。今回の研究結果は、赤ちゃんと接するときには、なるべくそっぽを向かずに、目と目を合わせて向き合うことが重要であると、乳児期の母子間のコミュニケーションの形態に一提言を投げかけるものである。<
投稿: kiriko | 2009年2月 7日 (土) 00:06
kirikoさん、今晩は。
プレスリリース、あったのですね。大変ありがとうございます。きちんと調べていなかったな……いかん。
なるほど、プレスリリースでは、ケータイを使いながらの子―養育者(母、としているのは、ちと不用意な気もするのですが)のコミュニケーションという部分への言及が、そもそも含まれている訳ですね。
という事は、読売の方、タイトル等はともかく、著者らのコメントに関しては、プレスリリースを参照したにしろ、新たに取材があったにしろ、特におかしなものでは無いですね。
いかにも興味を惹こうとする書き方だな、という印象は持ちますね。読売の記事を最初に読んだバイアスだろうか…。
投稿: TAKESAN | 2009年2月 7日 (土) 00:33
>TAKESANさん
「子どもは8カ月頃から横顔を人の顔として認知する」という話に「携帯電話」云々が出てくるのが、何か腑に落ちないです。
もしかして、研究費を得る関係で、すぐ社会に役立つ研究であることをアピールしようという意識が研究者にあるのでしょうか?
子どもの発達や脳の解明が、とかく親の育児態度への啓蒙(説教)に使われたりするので、私は警戒してしまいます。
投稿: kiriko | 2009年2月 7日 (土) 02:28
確か、大学のプレスリリースに関してのお話は、以前apjさんがお書きになっていましたね。
研究者の意図と言うか、認識がどのくらい反映されているものなのか、というのは気になります。確かに、社会へのアピールという面が含まれている可能性もありますね。関心を惹きやすい物言いになっているように感じますし。
最後の段落について、私も同意します。要らぬ圧力にもなりかねないので、懸念しています。ゲーム脳関連でも、そういう事がありますしね…。
------
プレス発表会が2/3に行われたという事なので、読売や工業新聞の記事は、そこでの発言の要約なのかも知れませんね。
------
亀@渋研Xさんによる、こちらのエントリーも参考になると思います⇒http://shibuken.seesaa.net/article/105281046.html
投稿: TAKESAN | 2009年2月 7日 (土) 02:44
TAKESANさん、こんばんは。
七田式関係のエントリーが無かったので、悩みましたがとりあえずここに書き込みますね。
kikulogでも報告の書き込みがあったようですが、七田式のCMがフジテレビの全国ネットで昨日(09年2月6日)から放送されています。
今のところ私が生で見たのは、朝の情報番組「とくダネ」とゴールデンのバラエティー「一攫千金!日本ルー列島」の中で放送されたものだけですが、調べればまだフジテレビの他の番組の中でも放送されたかも知れません。
それにしても、フジテレビの全国ネットの番組のCM枠を買い取れる程に七田チャイルドアカデミーが利益を上げているのはマズいですね。
こういうCMを見て子供に七田式をやらせてみようと考える親が増えれば、そのマズい状況に拍車がかかる訳で、何か批判の手を考えないといけませんね。
投稿: 内海 | 2009年2月 7日 (土) 04:21
内海さん、今日は。
黒猫亭さんも採り上げておられましたが、ローカルで無くゴールデンのCMが流れるっていうのは、これは…。
あまり詳しく無いですが、ゴールデンでCMを打つのって、相当に金が掛かるんですよね。
後、別の話ですが、Yahoo!にこんなのがあったりするんですねえ⇒http://cert.yahoo.co.jp/beginner/kirari.html
投稿: TAKESAN | 2009年2月 7日 (土) 12:16
>TAKESANさん
言及戴きまして有り難うございます。七田チャイルドアカデミーのHPを視る限り、「ルー列島」は初回と謂うことでかなり奮発して、目立つゴールデン枠を買ったけれど、今後は「とくダネ!」後半に週一で流れる程度みたいですね。
この手の対象に対する脇の甘さと謂うことでは在京キー局ではCXがぶっちぎりですね。背景には、広告がとれなくなったTV局の危機的状況があるんだと思いますが。
昨今の状況を考えると、広告費はわれわれが想像するよりお値打ち価格だったんではないかとも思います。下手をすると、七田が作りたいと謂ったわけじゃなくて、代理店がわざわざ七田に持ち掛けて広告を出させた可能性すらあるんじゃないかと。
とまれ、これまでがこれまでなので、CXや関テレは要注意ですね。少なくとも、ニセ科学としての問題性を活発に論じられている対象について、情報を篩い落とすと謂う意識がまったくないと謂うことですから。
関テレに至っては、外部から山のような批判があったにもかかわらず、不正が明るみに出るまで「あるある」を放映し続けた前科は大きいと謂うのに、相も変わらずニセ科学に甘い姿勢をとり続けていますから。
投稿: 黒猫亭 | 2009年2月 8日 (日) 03:49
黒猫亭さん、今日は。
朝の情報番組の所で流れる、というのも、結構…。
表面上は、単なる早期教育の組織、という感じですから、あのとんでも無さは覆い隠されている、のかも知れません。もちろん、実の所、関係者がどういう認識なのか、知る由もありませんけれど。
七田式自体は、テレビでたびたび採り上げられますね。まあ、当然の事ながら、「無難」な、フラッシュカードの部分を紹介するくらいですが。
そういえば、以前私の地元のCMで、七田式のを観た気も。いつだったかなあ。
投稿: TAKESAN | 2009年2月 8日 (日) 17:26
>TAKESANさん
>>そういえば、以前私の地元のCMで、七田式のを観た気も。いつだったかなあ。
あ、なるほど、七田CAのHPでは「全国ネット放映」と謂う紹介の仕方ですから、ローカルでは以前から放映していたのかもですね。それがFNN系列局なら、辻褄は合いますね。
投稿: 黒猫亭 | 2009年2月 8日 (日) 17:51
どういう形態だったか、よく憶えていないんですよね。もしかすると、地域のカルチャースクールとか食べ物屋を5分くらいの枠で紹介するような、そういう番組だったかも知れないです。時間帯としては、夕方だったかな。
投稿: TAKESAN | 2009年2月 8日 (日) 18:13