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2009年2月 7日 (土)

丹田とはシステムである

Interdisciplinary: 気とはシステムであるの、「気」を「丹田」に換えても、ある程度成り立ちます。

もちろん、気は より一般的な概念で、丹田(ここでは「下丹田」、すなわち、いわゆる臍下丹田を指す)は、下腹にある、実体のように感ずる何物か、というような違いはあります。

当然、解剖学的に見れば、丹田があるとされる箇所に、それと対応する独立の組織や臓器は無い訳です。ですから、バイオメカニクス的に考えれば、その辺りの筋肉を合理的に働かせる意識、あるいは認知のポイントであり、心理学的には、そこを認知する事で精神的な安定が得られるとされているポイントである、というように、総合的・機能的なものだと考える方が、適切でしょう。高岡英夫氏は、著書において、

伊藤 正中線は、陸上競技でも肉体と直接的対応を考える段階では軸として理解することができますが、武術でしきりにいわれ、高岡先生も重要視されている「ハラ」とは、一体どういうものなのですか。

高岡 「ハラ」、「下丹田」と古来から言われてきたものは人体下腹部の中心にあるとされている点ないしは球状の部分です。しかし、その部分は、解剖学的には腸があるばかりで他には何も見いだせません。ところが、その丹田があるとされる周りには、大腰筋、腸骨筋、上下双子筋、方形筋、横隔膜などの深層筋群と腹筋、腰背筋などの浅層筋群が丹田を中心に長球状の構造を形成しているのです。

 つまり、「丹田ができる」とは、こうした「長球状筋構造体」が至適のバランスを持った統一体として筋収縮活動を行うことを指すのです。

伊藤 武道家の人達のハラに対する説明には、極めて観念的な印象を持っていたのですが、先生の説明は極めて明快ですね。

高岡 ただ、深層筋や深層小筋群は、意識化することが極めて難しいのです。そこで意識と動作の関係がまた出てきます。丹田自体は、それらの筋肉群を統一的に動員するための「意識装置」であるわけです。

伊藤 なぜ、ハラが利くと動きがよくなるのでしょう。単に意識化できない筋肉というのは、その丹田周辺の筋肉群以外にも体全体に沢山あると思いますが。

高岡 それは、四肢の運動や体幹・呼吸運動の本質的な因子を根底から支えているのが、この長球状筋肉群だからです。それが本質的な因子を担っているということは、脊椎や骨盤とのつながりを考えれば容易に推察できると思います。

 ついでに申しますと、中丹田があるといわれている胸の部位、つまり胸郭を取りまく筋肉群も長球状構造体をなしており、この意識中心が中丹田なのです。

このような見解を表明しています(『極意要談』)が、バイオメカニクス + 心理学的に考えると、このようなシステムあるいは機能を指し示す概念として「丹田」がある、というのは、それほど的外れでは無いでしょう。※高岡氏は、実証が進んでいないのに断定的に語り過ぎるきらいがあるので、読む場合は注意しましょう

もちろんこれは、きちんと解明されたものでは無いでしょう。丹田を意識すると、実際にその筋肉群が合理的に使えるようになるのか、とか、それらが使える際の知覚あるいは認知のありかたが、位置・形状的に、伝承されたきた丹田とどのくらい対応するか、とか、解剖学以外の、神経生理的なシステムはどのように関わっているか、とか、解明すべき事柄は、沢山ある訳です。そもそも、合理的な身体運動や、安定的な精神状態と、丹田があるとされる付近の構造とどう科学的に関わってくるのか、という基礎的な部分もあります。ここら辺は、たとえば腸腰筋(大腰筋・小腰筋・腸骨筋)の重要性などが関わってくるでしょう。

丹田というものは古来、そこに実感がある、とされているものですから、心理学的に見れば、何らかの体性感覚的情報の認知の体制あるいはスキーマ、と考える事が出来るでしょう。その意味では、丹田の位置に対応する臓器等が存在しないからといって、「丹田は存在しない」と言うのは、気が早いのです。

ここら辺を踏まえると、肥田春充翁が試みたような、丹田の位置を幾何学的厳密に定める、というのものは、やはり的外れであった、と私は考えます。初めから複雑なものは、複雑なままに記述しなければなりません。過度に単純化して普遍的な原理を得ようとすると、そもそも構成概念を示す言葉だったのに、無理に切り取ってしまう、という本末転倒になる事があります。

こういう概念を解明するには、認知神経科学的な研究、脳イメージングを用いた分析等が、必須となるでしょう。あるいは、言語論的な論理も考える必要があります。たとえば、甲氏が「丹田を意識」するのと、乙氏が「丹田を意識」するのが、同じ結果をもたらすとは限らないのですしね。

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