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2009年1月18日 (日)

手字手裏見

 さて手字は、敵の斬る太刀がどのようであろうとも、敵と正対してその太刀と十文字に合して必ず上太刀となって勝つ術技をいう。十文字に正しく合して斬り込めば、わが身に敵の太刀が当たることはほとんどなく、多少の害は蒙っても、その時には敵の拳は全く斬り落としているのである。これを十文字勝または転勝といい、当流の極意とするところである。
柳生延春 『柳生新陰流道眼』 (P60)

ここで「手字」とは、縦横5本の線分からなる格子状の図形の事で、手指を縦横に組み合わせた姿を象徴したものだそうです。

 この截相に於ける最重要点は目付である。この際の目付は、敵の手裏――太刀を執る柄中、手の内をよく見て、敵の太刀を斬り出す拍子を明確にとらえ、敵の手裏を斬り落とす。要するに、敵の手裏を明観して、敵の斬り込む拍子にぴたりと節を合わせて、十文字勝にわが人中路を斬り透すことを「手字手裏見」というのである。兵庫助利厳の兵法歌に「十字こそ此の一流の大事なれ魔法に心かけな行く末」とある。
柳生延春 『柳生新陰流道眼』 (P60)

引用部は、「上泉伊勢守信綱の口伝を整理して体系化した柳生石舟斎宗厳が、孫の柳生兵介長厳――後の兵庫助利厳へ慶長八年(1603)に伝授した目録」(P24)である『新陰流截相口伝書事』に書かれている部分です。

やはりポイントとしては、相手がいかように打って来ようとも、こちらは自分の人中路(中心線や正中線と同様のものでしょう)を斬るようにすれば必ず勝つ、という所でしょうか。要するに、「まっすぐ斬り落とせば良い」という事で、ものすごい汎用性を持っているという意味ですね。色々の認知を巡らす必要も無い。ある意味究極的な術です。

もちろん、袈裟で斬られようとも変わらないようで、そこら辺に関しては、「あばら(引用書では別の字)一寸」という教えがあるそうです。すなわち、相手が剣で薙いでこようとも、こちらは敵の拳をちゃんと見て、相手の剣に合わせて斬り落とせば、太刀は十文字に交わり、自分の剣が上になって、敵の拳を切り落として勝つ事が出来る(十文字勝)。敵がこちらのあばらを一寸斬ったとしても、こちらは敵の拳を切り落として勝つ、いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」、の論理。

私は合気の剣を知っているので、この論理は大変親しみやすいです。いや、そもそも合気の剣が、古流の技法を採り入れている訳ですから、当然と言えば当然なのかも知れませんが。合気の剣では、合わせは基本なので、より具体的に認識しやすいというのはありますね。

参考資料

斉藤守弘先生による、合気道の剣術の示範。合気の剣においては、相討ちにならないために、「腰のひねり」による極めが重要とされる。

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コメント

切り落としというと、江戸時代の随筆『甲子夜話』にあった小太刀で切り落としを行ったエピソードを思い出します。
その話は、一刀流の使い手の乱心者を同じく一刀流の使い手が取り押さえた事件です。
乱心者の刀を捕り手は短い小脇差で必死に三度左右に切り落とし、そこで落ち着いて相手の刀を落として取り押さえたといいます。
後に捕り手の人物は、事に望んで小脇差は心細く、八寸以下のものは差さないほうが良い、と語ったというのが記憶に残っています(実戦経験のある人による得物の長さや形状に対する評価を知るのが好きなもので)。
甲子夜話の筆者である松浦静山に武芸の造詣があったため、同書には剣術以外にも柔術、弓、槍、鉄砲の技法の話がいくつもあってなかなか面白いです。

投稿: 町田 | 2009年1月18日 (日) 13:49

町田さん、今日は。

私は、松浦静山の本は、確か、誰かが引き合いに出したものでしか読んだ事が無いのですが、なかなか面白そうですね。

切り落としにしろ合撃(合し打ち)にしろ、大変面白い術技だと思います。敵の剣をいかに合理的に防ぎ勝つか、という所を考究した結晶のようなものでしょうから。

当然、実際に遣うのは困難でしょうけれども。力学的な要素(タイミングや合わせる角度)もそうですけれど、根本的には心法ですよね。真剣でこちらの身体を両断せんとするに合わせて剣を真っ直ぐに斬り落とすのは、なかなか出来る事ではありませんね。どうしても、避けたい、躱したい、と思うのが人間心理でしょうから。

だからこそ、伝書では心法に関する部分に多く割かれているのだと思います。

投稿: TAKESAN | 2009年1月18日 (日) 14:45

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