合気道の技法体系についてちょこっと
complex_catさんのコメントInterdisciplinary: 正面打ち技法のはなしと中国武術との論理的繋がりについて、みたいな#comment-53835544(なんかプロパティが変だ…)へのレス。
八卦掌は、よく出てきますですね。私も知識は全然持っていませんが、比較されているのは結構目にします。
武器を持っている敵多人数を想定して体系が構成される、というのを考えると、多分収斂していくのだと思います。それで、より重要な部分とされる点が対象化されて、それが具体的な型や稽古法に反映される、という事ですね。
そういう観点だと、合気道というのは、相手が太刀か短剣を持っているのを体術でも絶対想定しているので(柔術は須らくそうあるべきと思いますし、実際そうなっているのでしょうけれど)、そういう所が意識化されて体系が創られてきたのだろうな、と。
後は、打撃技か組技のどちらを主体的に用いるか、というのも関係してくると思います。当身をよく用いる柔術の技法に関しては全然知らないのですが、たとえば柳生心眼流などは、また独特のシステムを持っているのかも知れません。
合気道では、身体の練りや体捌きは、ほぼ必ず技法に組み込まれているように思いますが、必ずしも受けと取りで型を行うのでは無く、一人で練られるように武器技の体系も工夫されていますね。2人型というのは、相手を制するという部分に意識を取られる場合があるので、意識を自身の身体に向けて練るという意味でも、武器技は重要です。
たとえば、剣素振り7本、杖素振り20本、という素振りがあり、それを基本とした型(組太刀・組杖・剣対杖)がいくつかある、という体系ですね。
呼吸法に関して。
合気道での「呼吸法」の用い方は、独特ですよね。おそらくすぐにイメージされるような調息法のようなものでは無くて、崩す技法そのものを指します。かたちとしては、大東流における「合気上げ」と同質ですね。※色んな方向けの余談。合気系の方からは異論もあるかも知れないですが、掴ませた所から崩すという課題があって、それを実現させる身体運用を身に着ける、という目的に向けて工夫したら、高級になると収斂する訳なので、ほぼ同じと言って良いです。ちなみに、合気道は必ず「掴ませつつ」、「完全に掴ませないように導いて」という見方があるとしたら、それは間違い。下動画参考
呼吸力を発揮して相手を崩す技法、という事でそう呼んでいるのだとは思いますが、残念ながら由来は知りません。
という訳で、百文字は一動画に如かず、なので、動画です。
最初の方をご覧頂くと解るように、崩す技そのものを「呼吸法」と言うのですね。一般的で無い用い方なので、これは結構紛らわしいのかも。合気道では、掴まれた場合、呼吸法を用いて崩して技を掛ける、という考え方をする訳ですね。※腕のかたちの事を指す場合もありますし、気の流れの時も当然用いられるので、もうちょい概念は広いです
斉藤先生は、多分合気道以外の方にはそんなに知られてはいないと思うので、時折紹介しています。こういうスタイルがあるというのもあまり知られていないでしょうから、それについても知って頂きたいな、と。
合気道の技法体系とその機能について、まとめて書いてみるのも面白そうですね。
参考動画。
斉藤仁弘先生(斉藤守弘先生のご子息です)による、呼吸法と呼吸投げ。
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コメント
北派の,対刀術のトレーニングの教本を学んだことがあるのですが(拳児にその一部が出てきます),日本刀の精緻な動きには絶対一刀両断だと思いました。円圏で振り回す中国刀は見切りやすいので,そういった練習が可能で,倭寇の剣に歯が立たなかったのだと思います。
実際のところ,兵器に対しては兵器で当たり前のように戦うのが恐らく中国武術の基本哲学なのではないかなと思いました。平和な時代になり試武になれば,兵器対無手の組み合わせ等のは公式にはないと思います。
ただ,王向斎老師が当時剣道5段であった沢井健一先生の打ち込みを小さな棒きれで全て無効化した話は有名で,何で応用が利くのだなと思いましたが,無手ではないのですよ,ここでも。
陸奥九十九みたいな,相手が何を持っていても無手で戦って最強などという発想は,考えたら,中国的合理主義の中ではあり得ないかも知れません。
非常に勉強になりました。無手の対武器術は,常時武器を携帯が当たり前の戦国文化では逆に進化せず,恐らく「刀を預ける」という侍文化がなかったら発達しなかったかもしれないなと思いました。ただ,全くないわけではありません。恐らく,各門派には伝わっているとは思うのですが,余り表面には出てこないですね。
多敵,対兵器前提で基本体系が組まれているというのは,日本独特かも知れません。
投稿: complex_cat | 2008年12月 5日 (金) 09:20
complex_catさん、今日は。
あまり明るく無いですが、社会的・政治的、あるいは思想的背景から、武器対無手の体系が編まれるようになったのかも知れませんね。無刀取りなんかは、そういうのを象徴する言葉だと思います。
たとえば、合気道では、技を掛けられたとしてもそこで終わりでは無くて、敵が持っている剣が落ちてくるのを想定して、正中面をはずし、入り身する、というのが徹底的に守られます。塩田先生の剣の演武で、確かそういうのがあったような。
もちろん、無手と短剣取りでは細かい部分が違っている技もあったりして、なかなか面白いです。
組太刀から太刀取りに変化する、というのも沢山あるんですよね。
これはあくまで個人的見解ですが…
両手から縦横無尽に繰り出される突きの連打よりも、両手が拘束された条件にある剣の攻撃の方が見えやすい事もある、と思っています。剣は、1)両手を同時に使い 3)重い真剣を扱い 2)刃筋を立てなくてはならない という条件がありますので…。
そういう意味では、打撃のバリエーションが豊富な中国武術、あるいはボクシングや空手のような、非常に洗練された打突系武術に合理的に対する方法的には、剣術をベースにした日本武術は弱い所があると思っています。
投稿: TAKESAN | 2008年12月 5日 (金) 11:40
先日の正面打ちの技法も、刀剣が念頭にありますね。
個人的に興味があるのは「実戦でどのように現在取り込まれているか」という話なので、その視点の話をちょっと書きます。
まず、現在警察や軍では合気道を取り込む、あるいは講師に呼んで特定の技法の訓練を行う事例が多くの国であります。しかしメジャーなナイフ格闘の技術は剣道、小太刀や小具足の技術体系とはかけ離れた東南アジア(フィリピン、インドネシア、マレーシア)の技術です。このため、対ナイフ技法はそうした東南アジアの技術に拠るところが多いです(一種のさばきです)。また、東南アジアの格闘技の源流の一部は中国拳法に由来し、逆に東南アジアの格闘技を取り込んだ拳法(截拳道も一例ですが、他にも例があります)があり、なかなか興味深いです。
投稿: 町田 | 2008年12月 5日 (金) 22:13
町田さん、今晩は。
正面打ちは、剣の理合ですね。いわゆる一本捕りなんかはまさにそうですし。
ナイフ術に関しては、確かにそうですね。日本武術における短刀を用いた術というのがあまり表に出ない、というのが事情としてあったりするのでしょうか。と、そんなに単純な話では無いのでしょうけれども。
余談ですが、チェーンソー付き銃には吹かせて頂きました(あのおじさんの動きに)。
投稿: TAKESAN | 2008年12月 5日 (金) 22:52
>チェーンソー付き銃
ご覧になっていましたか。
ドアを破る動画では、チェーンソーで切るのではなくほとんど押して破っていました(笑)
>短刀術
基本的に日本の小太刀、小具足、短剣道はいずれも脇差クラス(刃渡り一尺以上)の長さを扱います。
しかし現在の軍用ナイフや格闘ナイフの基本サイズは刃渡り13~18cmの長さです。このサイズに対応した技法がもともと東南アジアの格闘技では存在します。
こうしたナイフでは、刃の長さや重さをうまく利用できないため、かなり近い間合いでナイフを持っていないほうの手で相手の攻撃をさばき、あるいは相手を制御して突く、カウンターを狙うという技法が中心となります(こうした技法に適応するため左右の手で同時に違う動きを行う基本練習があります)。
また、東南アジア系の移民は早いうちからアメリカに移住し、他の格闘技と対照して発展や普及に努めてきたという歴史的経緯も影響していると思います。
短い刀剣を使う日本の武道は、日本国内でもマイナーで普及していないというのも一つの要因でしょう。
投稿: 町田 | 2008年12月 5日 (金) 23:40
チェーンソーは、ウケました。発想がすごいですねえ。
日本武術以外の武器術についてもご教示、ありがとうございます。
日本武術では、小太刀よりずっと短い短刀を用いた術というのは、あまり表には出てきませんね。少なくとも現代ではポピュラーでは無い、とは言えそうです。
投稿: TAKESAN | 2008年12月 6日 (土) 00:16