ノート:心理学研究法(9)
○第7章 質問紙による研究(平井洋子)
§1 質問紙の特徴
質問紙(Questionnaire)――用紙に一連の質問を配置したもの。回答方法に関する指示なども書かれている。用紙を見せ口頭で回答を得る形式や、用紙上に質問を記し回答も用紙上に記入する形式(紙筆式:Paper and Pencil)がある。※本章では紙筆式を扱う
▼調査系の質問紙と検査系の質問紙
質問の内容や研究目的に応じて多種多様な質問紙がある。
- 知りたい対象
- 集団の傾向(調査系)
- 測定内容
- 属性(性・年齢・職業など)
- 意見
- 行動・実態など
- 質問紙の具体例
- 国勢調査
- 世論調査
- 消費者アンケート
- 回答の得点化は想定していない場合が多い
- 測定内容
- 個人の特性の強さ(検査系)
- 測定内容
- 性格
- 態度・価値観
- 興味
- 知識
- 質問紙の具体例
- 適性検査
- パーソナリティ・インベントリー
- 問診表
- 資格試験・能力
- 回答の得点化が行われるのが一般的
- 測定内容
- 集団の傾向(調査系)
一つの質問紙に両方のタイプの質問が混在する事もある。
学力調査のように、個人の得点を出すと同時に学校や自治体単位でも集計されるなど、同じ質問が両方の目的に用いられる事もある。
▼質問項目の形式
- 多肢選択式(Multiple-Choice)
- 複数の選択肢を与え、当てはまるものを選択させる形式。与える選択肢が2つの場合→強制選択式(Forced-Choice)
- 正誤式(True-False)
- 質問に対し、正/誤 で答えさせる形式。性格、態度、価値観、興味などの検査でよく用いられる。
- チェックリスト(Checklist)
- 形容詞や事物を複数並べ、当てはまるものをいくつでも選ばせる形式。個々の形容詞や事物について○×で評定する正誤式と実質的に同じ。調査系の質問紙でよく用いられる。
- 評定尺度法(Rating Scale)
- 質問に、どの程度自分に当てはまるかを段階評定させる形式。段階によって、「○件法」と言う。4件法から7件法がよく用いられる。
- 自由記述式(Free Response)
- 質問と回答欄を与え、自由に回答を記述させる形式。
- 利点:多様な情報が集められる
- 欠点:回答の整理が煩雑で回答の負担も大きい
- 質問と回答欄を与え、自由に回答を記述させる形式。
▼質問紙による研究の長所と短所
面接や観察、実験などの研究法と異なり、質問紙による研究では、書面上でデータ収集が行われる。
長所
- 多数の回答者に対し一度に実施出来る
- データの収集条件を統一する事が出来る
- 実施が簡単
- 回答者の心理的負担が比較的小さい
- 本人しか解らない内面的な事や、過去・将来の事についてもたずねられる。
短所
- 回答者の言語的理解力に依存する
- 再質問や回答の確認が出来ない(意味の取り違えに対処出来ない)
- 無意識的・意識的な回答の歪曲があり得る
- 回答者が意識していない事は測定出来ない
§2 質問紙を用いた研究の流れ
▼全体的な流れ
- 実施目的と対象者の明確化
- 仕様書――実施目的や測定内容、質問項目の数・バランス・配置などを具体的に書き下ろす
- 質問紙の作成
- 質問項目の作成
- 先行研究
- 日常的な観察
- 専門家の知識や意見
- 他者によるチェック
- 質問項目の作成
- 予備実施――本実施の前に、上手く機能しない質問項目や編集上のミスを見つける
- 項目分析
- 質問の修正と入れ替え
- 本実施
- 無効回答のチェック
- コーディング
- データ入力
- 100名以上のデータを集めるのが一般的
- 集計と分析
- 単純集計――回答の分布、最小値・最大値、平均値、標準偏差などを確認
- クロス表
- 多変量解析
- 結果の報告
▼質問紙の設計
▼質問紙の編集
具体的事例がありますが、まとめるのが難しいので省略。
こちらなどを参考に⇒「ここはどこ」質問紙の設計
ワーディング(言い回し)について、良い質問紙を作るためのワーディング、というのが箇条書であるので、引用します(P89)。
明快で簡潔な表現を使う
語彙は平易でオーソドックスに 文は短く単純な文法で 形容詞や副詞の使用は最小限にするひとつの質問文の使用にはひとつの内容のみ
否定的な表現を避ける
とくに二重否定を避けること不快感をよぶような表現を避ける
差別的な表現 決め付ける表現 プライバシーに立ち入った内容誘導的な表現を避ける
規範や常識をちらつかせる 好ましい(好ましくない)ニュアンスをもつ表現用語や表記を統一する
§3 質問紙の実施と利用上の注意
実施者の果たす役割は重要。実施者の態度や行動一つでデータ収集が失敗する事もある。
- 回答方法の指示を徹底させる
- 回答者は質問紙に記載された支持や注意事項を読むとは限らないので、口頭や板書でしっかり繰り返し伝える。
- 回答者の不安を取り除く
- 回答者は、自分の回答データの扱いや公表の有無について不安に思う。データ処理や公表の内容などを説明する。
- 自発的な協力姿勢を引き出す
- 回答者の中には、協力的で無かったり、どうでもいいといった態度の人もいる。実施目的を説明する際に解りやすく伝え、内容に興味を持ってもらうように努める。
既製の質問紙利用の際の注意――実施マニュアルや採点マニュアルが添付されていたら、手順は必ず守らなければならない。質問の削除や改変は行わない。行う場合は、自作のオリジナルな質問紙と考え、仕様書作成の段階からやり直すべき。
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コメント
TAKESANさんこんにちは。
テキストまとめるシリーズ、大変タメになります。
大学での参考書などは実家に置きっぱなしにしているので尚更嬉しいです。
やっぱり基本が大切です。
予定は未定・・・科学の哲学を採りあげてくれたら嬉しいです。
このタイトルの本は読んだことがありません。
さて、本題です。
アンケート調査を見ていてタマにあるのがコレですよね。
>ひとつの質問文の使用にはひとつの内容のみ
行政が実施している調査でもよく見られます。教科書でも大きく書いてある基本中の基本なのですけどね。
それだけ日本語は難しいということなのでしょうか。
ではまた。
投稿: どらねこ | 2008年12月28日 (日) 09:16
どらねこさん、今日は。
『科学の哲学』は、ニセ科学論を考える上でも参考になる本だと思います。私もよく参照したりしています。
『科学”の”哲学』となっているのは、狭義の科学哲学だけでは無く、科学史や科学社会学などの内容も含んでいるからですね。そういう表現をしている本はたまに見かけます。
『自然と文化の記号論』と『科学の哲学』を同時進行するという離れ業もありかな。
ダブル・バーレル質問は、頻繁に見かけますね。社会調査のテキストとかには必ず書いてあるのに…。
投稿: TAKESAN | 2008年12月28日 (日) 12:00