ノート:心理学研究法(4)
第3章の続き。
§2 面接法
▼面接法とは
面接法――一定の環境において研究者が研究対象者と対面し、相互的コミュニケーションを通して情報を収集する方法。
利点
- 対象者の内的世界を把握するのに優れている。
- 対象者の表現に対してその場で介入出来るため、複雑な内容であっても研究者が求めているテーマに合わせて系統的にデータを収集できる。
→対象となっている人々の主観的体験を背景を含めて把握するのを目的とする質的調査に適した方法。
その一方、研究者と対象者の相互作用によって成立するものだから、研究者の影響が及びやすい。たとえば、
- 対象者が研究者の期待を察知し、それに合った返答をしてしまう。
- 親しさや信頼感などによって面接で語られる内容が変わってくる。
面接では、言語的コミュニケーションだけで無く非言語的コミュニケーションが交されるので、研究者には、相手の表情や身振りなどを観察し、非言語情報を的確に把握する技能も必要とされる。バーバル・コミュニケーションとノン・バーバル・コミュニケーション(NVC)。
▼構造化面接・半構造化面接・非構造化面接
面接法は、「研究者が対象者に質問する項目がどの程度決定されているか」、つまり、「そこで行われる面接の構造が事前にどの程度限定されているか」によって、構造化面接・半構造化面接・非構造化面接に分けられる。
構造化の程度によって、会話の自由度が異なってくる。
- 構造化面接――事前に質問すべき項目が準備。研究者は、それを逐一質問して目標とするデータを系統的に収集。
- 非構造化面接――質問する内容や目標とする回答をあらかじめ予想。質問項目のような明確な形態はとらず、会話の流れに応じて自ずと面接の目標に関連した内容が語られるように面接の進行を企てる。
- 半構造化面接――構造化面接と非構造化面接の中間。あらかじめ質問項目は準備しておくが、会話の流れに応じて質問を変えたり追加したりして、目標とする情報を収集。
目的による分類
- 調査面接――調査目的に合致した情報の収集のための面接。構造化面接や半構造化面接が主に採用される。
- 相談面接――対象者の心理援助を目的とした面接。対象者の自発的な語りを共感的に聴く事が重視される。非構造化面接が採用される場合が多い。
調査か臨床か
- 質的調査――調査面接
- 臨床面接(臨床心理学の実践技法)――調査面接の一種である査定面接→相談面接(第13章で解説)
対象者に人数による分類
- 個人面接
- 集団面接
§3 観察法
▼観察法とは
観察法――対象の行動を注意深く見る事によって対象を理解する研究法。
分類
- 観察事態
- 自然観察法――条件を統制しない日常場面において、対象の行動をありのままに観察。複雑な事象をコンテクストを含めて把握出来る所が利点。
- 日常的観察――日常生活の中で偶然に遭遇した出来事を記録。
- 組織的観察――研究目的に沿ってあらかじめ観察単位をサンプリングし、それに絞って観察を行う方法(ただ単に対象を観察するだけで、状況を全て適確に観察するのは不可能に近い)。
- 時間見本法――観察単位:時間
- 場面見本法――観察単位:観察場面
- 事象見本法――観察単位:観察する事象や行動
- 実験観察法――ある行動に影響すると思われる条件(独立変数)を系統的に変化させ、行動や内的状態(従属変数)の変化を観察・測定し、条件と行動との因果関係を調べる。第10章で解説。
- 自然観察法――条件を統制しない日常場面において、対象の行動をありのままに観察。複雑な事象をコンテクストを含めて把握出来る所が利点。
- 観察形態
- 参加観察――研究者が観察対象になる人々と関わりながら観察
- 交流的観察――現実場面で観察対象と交流しつつ観察
- 面接観察――面接場面で観察
- 非参加観察
- 直接観察――観察者が状況に入り込んで観察
- 長所:観察者が様々な視点から観察出来るため、対象の状況を生き生きと、多元的に把握出来る。
- 短所:観察者効果を及ぼし得るので、完全に自然な観察とは言えない部分も出てくる。
- 間接観察――ビデオ等の観察装置を通して観察
- 長所:観察者効果が弱い。
- 短所:観察の視点が限定され、現象の一側面しか把握出来ない。
- 直接観察――観察者が状況に入り込んで観察
- 参加観察――研究者が観察対象になる人々と関わりながら観察
参考書では、表は大まかな分類しか書かれていませんが、細かい分類もすぐ把握出来るように、全部表に組み込んでみました。
§4 フィールドワーク
▼フィールドワークとは
フィールドワーク――研究者自らが、研究の対象となっている出来事や現象が起きている現場(フィールド)に出向き、その場で観察しながら対象となっている出来事や現象が生じる過程を調査する方法。
ただ単に研究対象の出来事や事象が生起する現場に身を置いてデータを収集すれば良いのでは無い。以下の手続きが必要(第5章で具体例とともに解説)。
- 参加観察
- 研究者自身が調査対象となっている社会集団の生活に参加。
- その一員として集団内部から対象を観察したり、内部の一員としての体験を記録。
- そこで生起する事象を多角的に長期にわたって観察。
- 循環的な仮説(モデル)生成過程
- 大まかな研究関心を決定
- 探察的リサーチ・クエスチョンを設定
- 初期データの収集・解釈
- リサーチ・クエスチョンの練り直し
- 追加データの収集と解釈
- 追加データに基づいて仮説の修正と精緻化を繰り返してモデルを生成
- マルチメソッド
- 質的調査――研究対象の出来事や事象が生じている状況を全体として把握する事が目指される。
- →様々なデータ収集の方法(マルチメソッド)の中から研究対象となっている事象や要因に合わせて適切なデータ収集法を選択し、組み合わせる事で対象理解を試みる。
- 参加観察が中核をなす。
§5 おわりに
- 質的研究法は、量的研究法に比較すると新しい方法に基づくもの。
- 様々なタイプの研究法が提案され発展しつつある段階。
- 共通した研究方法や評価基準が最終的に確定されている訳では無い。
- 未確立な点はあるが、心理学研究の可能性を広げる方法として、今後の発展が大いに期待。
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