岡田氏の論拠2
脳内汚染関連のエントリーを続けます。
岡田氏の主張とその論拠について、簡潔にまとめてみます。「▼」の後に、節の見出しを引用し、岡田氏が援用した論拠を示します。
▼覚醒剤の静脈注射にも匹敵(P46)
テレビゲーム中のドーパミンの分泌を調べた研究。ゲームプレイによるドーパミン放出の増加が、覚醒剤(アンフェタミン。0.2mg/kg)の静脈注射時と同等。
論拠
- M.J.Koepp et al., "Evidence for striatal dopamine release during a video game"(nature 1998)
▼ゲーム・ネット依存は治療の対象となる病気(P52)
マレッサ・オルザックやキンバリー・S・ヤングらの診断基準を紹介。ゲームやネットの依存を治療するクリニックの増加を指摘。
論拠
- K.S.Young, "Internet Addiction: The emergence of a new clinical disorder" CyberPsychology and Behavior, 1 (3) 1998
▼各国のゲーム、ネット依存の調査(P61)
イギリス・アメリカ・ノルウェーの調査を紹介。日本での調査として、魚住の調査を紹介。
利用実態や依存症状のみならず、認知の傾向や発達の問題、家庭環境などの背景要因にまで踏み込んで調べた点は、世界的に見ても、非常に画期的な調査である。本人のみならず、保護者からも回答を得ることで、非常に精度の高いデータとなっている。(P62)
論拠
- M.D.Griffiths et al, "Dependence on computer games by adolescents" Psychol. Rep. 82 (2) 1998
- A.Johansson and K.G.Götestam, "Problems with computer games without monetary reward: similarity to pathological gambling" Psychol. Rep. 95 (2) 2004
- 魚住絹代 「メディアの利用状況と認知などへの影響に関する調査」 2005
▼恐ろしい中長期的影響(P64)
しかし、ゲーム、ネット依存で本当に恐ろしいのは、依存症状よりも、長期間使用を続けた場合の中長期的な影響である。その点も非常に薬物中毒に似る(P64)
一般的な薬物中毒の精神医学的な解説。ゲームによる症状についての具体的記述は無し。
▼テレビが村にやってきた(P81)
テレビによる悪影響の説明。テレビが無い地域にケーブルテレビが引かれた。その前後の変化について研究(タニス・ウィリアムズらによる)。テレビが、特に子どもに悪影響(暴力性を高める等)を与える事を示唆。
▼重要な幼い日の体験(P83)
アメリカのローウェル・ヒューズマンらのコホート研究を紹介。
- 8歳までにどれだけテレビを見ていたかによって、30歳までに犯した犯罪行為の程度を予測出来た。
- 30歳の時点での攻撃性の強さや犯罪歴は、今の時点より、8歳の時点でどれだけテレビを見ていたかに左右された。
- 8歳の時点でテレビをよく見ていた人は、親になったときに、子どもを厳しく罰する傾向があった。
これらが示されたと主張。
論拠
- L.R.Huesmann et al., "Longitudinal relations between children’s exposure to TV violence and their aggressive and violent behavior in young adulthood: 1977-1992" Dev. Psychol. 39 (2), 2003
▼因果関係の認定と法的規制(P84)
アメリカのブランドン・センターウォールの報告書によって、テレビの発達への影響、攻撃性・犯罪増加との因果関係が示されたと主張。
テレビ所有率と殺人率との関係を示した、何を描いているか非常に解りにくいグラフを載せている(Centerwallの原著のグラフを改変)。
岡田によれば、
さらにセンターウォールは、さまざまな疫学的データを検証した上で、アメリカで起きる殺人の原因の半分がテレビによると因果関係を断定したのである。(P87・89)
論拠
- B.S.Centerwall, "Television and violence The scale of the problem and where to go from here" JAMA 267 (22), 1992
▼覇気のない青年(P136)
グラフが紹介されている。魚住の著作(『いまどき中学生白書』)にも同じようなグラフが示されている。同じような種類のグラフがたびたび載っている。
ここでのグラフは、横向きの棒グラフ。縦軸:「1日平均のゲーム時間」、横軸:”「何事にも無気力で興味がわかない」と答えた子の割合”(%) となっている。縦軸は、「まったくしない」、「30分くらい」、「1時間くらい」、「2時間くらい」、「3時間くらい」、「4時間以上」。カテゴリーとして選択させたのか、自由に記述させて階級に分けたのかは不明。ヒストグラムでは無く棒グラフである事から、カテゴリーデータと思われる。「4時間以上」とまとめている所や、1時間刻みである所(何故30分刻みが混じっているのか?)の理論的根拠が不明。
質問に対する回答の選択肢(何件法か、等)も不明。
単純集計の度数分布図で無いのに、棒グラフにしている。従って、%の合計は100にならない。だから、一般的な、相対度数とカテゴリーとの関係を視覚的に把握する図では無く、帯グラフを一部切り出したような図になっていて、非常に紛らわしい(しかも、横軸は、25%までしか目盛られていない)。質的変数同士の関係なので、通常は、帯グラフやクロス集計表(分割表)が用いられる。
以前、魚住の著作を参考に作成したグラフがあるので、再掲する。全然違うグラフだったので、後で載せます。追記:岡田氏の本を元にグラフを作成(クリックで拡大)。グラフの向きを縦方向にしました。
この右側にあるようなグラフが頻出する。そして、分母が異なるにも拘らず、「○○は□□の何倍」と記述している。意味が無い事は無いが、紛らわしい。
岡田は、このようなグラフを図示し、そこに、検定の結果を示している。多くのグラフの説明に、カイ二乗検定を行ったとある。たとえば137ページでは、有意確率は0.0001とあるが、n=1830と巨大なサンプル。それ以前に、サンプルの無作為性に疑いが持たれるので、検定の結果をどこまで一般化出来るか(目標母集団と達成母集団との違い)は疑問である。
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取り敢えず、前半はこんな感じ。後半は、発達障害との関連等について書かれています。
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