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2008年11月 9日 (日)

寝屋川調査のデータとグラフ

魚住絹代 『いまどき中学生白書』より、『メディアの利用状況と認知などへの影響に関する調査』(2005)、通称「寝屋川調査」(以下、「寝屋川調査」と記述)に関するデータについて書かれている部分を検討し、掲載されているグラフについても言及します。

以下、「本書」と記述した場合、『いまどき中学生白書』を指します。

○寝屋川調査のデータ

 二〇〇五年七月に行われたアンケートには、寝屋川市、そして、講演を通じて知己を得た長崎県の教育庁、教育委員会、東京都の中学校の生徒、保護者計四千七百六十二人に協力を求め、三千五百人余が回答してくれた。(P12)

▼時期

2005年7月

▼場所・調査対象

寝屋川市・長崎県・東京都の中学生、保護者

▼調査人数

回答の依頼:4762人

回答人数:約3500人

▼調査法に関して

 精神医学の専門家などの協力を得て、調査が医学的・科学的な裏付けを持つようにした。(P12)

▼集計

寝屋川市教育委員会、寝屋川市立中学校のスタッフ

▼問題点

  • サンプルが無作為に抽出されたものでは無い。たとえば、社会調査でよく用いられるような、層化多段抽出法のような方法は採っていないようである。
  • 従って、当該調査によって得られたデータを検定した場合(本書では行われていないが、岡田の著作では、たびたび検定の結果が書かれている)の確率論的な根拠が失われる。目標母集団(調べたい全体)はおそらく、全国の中学生とでもなるであろうが、達成母集団(実際に得られた、あるいは一般化出来る集団)としては、可能な限り一般化したとしても、各地域の中学生(と保護者)総体となるだろう(これも無理な仮定であるが)。
  • 精神医学の専門家などの協力、とあるが、質問項目等、どのような専門家が関わっていたのか、甚だ疑問である(当ブログの他のエントリーを参照の事)。

○グラフの検討

本書に掲載されているグラフを、いくつか紹介する。新たに筆者が同じようなグラフを作成した。

注意点

  • 必ずしも正確な数値が書かれている訳では無いので、大体同様だと視覚的に確認出来るよう、適当に数値を入力した。
  • 本書では、グラフが掲載されてあるページに、タイトルとして、たとえば「ゲーム族には偏食が多い」などの、その節での主張とグラフの解釈の文言が当てられており、グラフによっては、下部にそのグラフを説明する文章が書かれている。本エントリーに掲載するグラフのタイトルは、そのタイトルをそのまま用い、縦軸・横軸の文もそのまま引用した。
  • 本書のグラフは、ほぼ3Dグラフである。それも再現した。
  • グラフのカテゴリーに、「3時間(くらい)以上」とあるが、これは、グラフによって、最も大きいカテゴリーが、「3時間以上」と「4時間以上」の場合があるからである。最大が「4時間以上」の場合には、「3時間くらい」とする。
  • あくまで参考として、再現したグラフを掲載するので、不正確な部分がある事をお断りしておく。
  • 「▼」の後に、「○□△(Pxxx)」と書いた場合には、文が、グラフが掲載されている節のタイトル、「Pxxx」は、節が始まるページ数。
  • グラフは、クリックで拡大。

▼ゲーム族は偏食が多い(P49)

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一日のゲーム時間が長い子どもほど、偏食が多い。三十分程度の子に比べ、三時間以上ゲームをする子は三倍以上、二時間以上の子は倍以上である。(P50)

この節、「ゲーム族の子は、なぜか肉が好きなケースが多いと感じる。もっとも、これはきちんとした統計に基づくものではなく、経験的な話である。」(P49)という記述もある。

▼落ち着きがなく、注意散漫(P51)

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長時間ゲームをする子は、注意散漫で、ミスが多くなる。一日三時間以上ゲームをする子の場合、三割以上が「注意散漫」と自己認識している。(P52)

他に、「じっと座っていることができず、たえず動きたがる」、「気が散りやすく、よくよそ見をしたり、忘れ物やミスが多い」などの質問への回答(いずれも保護者回答)を参照しているようである。

▼傷つけられると仕返ししたくなる(P55)

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ゲーム時間が長い子どもほど、傷つきやすく、それを根に持つ傾向がある。四時間以上ゲームをする子は、まったくゲームをしない子に比べ顕著にその傾向が強い。(P56)

「仕返し」と「復讐」では随分意味合いが異なるように思える。

この質問に答えた子どもについて、「全体で19.7%であったのに対し、四時間以上ゲームをやる子は約二倍だった。」(P55)とある。何が二倍だったのかすぐには解らないし、「4時間以上ゲームをする」子どものカテゴリー内の割合だとしても、全体での割合と比較して何の意味があるのか不明である。

▼無気力・無関心・投げやり(P60)

P62_html_m5dc824f0

ゲーム族は、「新しいもの」を好まない。ネット族、メール族、マンガ族らに比べ新奇なものに対する興味を持つ度合が半分程度で、目立って低い。(P62)

2倍といっても10%と20%との差。しかも標本調査であり、更には、無作為で無いので、誤差の評価、一般化も出来ない。また、保護者の回答である。「とても新しいもの」というのが何を指すのか不明。

▼人付き合いは苦手(P67)

P68_html_m4047a863

もともと社交的だった子どもが、長時間ゲームをすることで内向的になっていく傾向がある。ゲーム時間が長いほど対人関係に消極的になる。(P68)

心理学的に、内向性の高さと社交性の低さは同じでは無かったはずである(詳細未確認)。いずれにしても、既存の測定尺度は使われていないようである。

縦軸の説明が意味不明。質問は、「人付き合いや集団行動は苦手」(子ども回答)、「やや消極的で、人と接するのがとても苦手」(保護者回答)であるのに、何故縦軸が、時間的な変化を反映したものであるかのように説明されているのか。「幼い頃の対人関係について問うと、必ずしも消極的な子どもでなかったことがわかる。」(P69)という記述があるが、ここのグラフの割合がいかにして導き出されたのかは、全く不明である。

▼対人依存症(P105)

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ゲーム族と対照的に、メール族は人との交流を好む。ゲーム族、ネット族と比べると、「人と接するのが好き」と答えた割合が顕著に高い。(P107)

保護者回答である。横軸の「熱中しているメディア」というのがどこから導き出されたのか解らない。中学生が心理テストに答えて云々という記述があるが、寝屋川調査での話なのか、別の話なのか、不明である。

見出しに「依存症」と書くのはミスリーディングである。

▼メル友をストック(P119)

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一日にやりとりするメールの数が多い子どもは、「友達になったり、絶交したり」が激しい。とくに一日五十通以上メールをする子は、顕著にその割合が高い。(P121)

何故かここでは、他の部分では見られなかった、回答の2つのカテゴリーをグラフにしている。しかし、これも何故か解らないが、積み上げ型の棒グラフで描かれている。

「絶交」という概念は解りにくい。いわゆる「ケンカ」との境界も曖昧。

▼きまぐれで衝動的(P124)

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一日にやりとりするメールの数が増えるにつれて、気分の起伏が激しくなる。一日五十通以上メールをする子どもは、半数近くが起伏が激しいと答えている。(P126)

「差が激しい」というのも、多分に主観による違いがあるだろう。

その他に、「あまり考えず行動したり、危険なことをしてしまうことがある。」という質問もあったようである。

グラフを見ると、縦軸の目盛りは5刻みで、それほど大きく違うのか、という疑問も出る。そこで、違うグラフを作成してみた。

P126b_html_m4717075f

何件法か判らないので、便宜的に、カテゴリーを2つにして帯グラフを作成した。随分印象が変わると思うが、いかがだろうか。

それ以前に、メールの頻度に関して、何故このような階級分けをしているのか、全く意味が解らない。何故、「20通以内(この”以内”というのもよく解らないが)」の次が、「50通以内」なのか。

▼メール族の生い立ちと家族(P134)

P135_html_m18589ee5

ゲーム族やネット族が「親に認めてもらいたい」と考えているのに対して、メール族は「友達や先輩」と答える率が高く、「親」を逆転している。(P135)

この節、「甘やかされて育ったと思う」という問いに、メール族(今更だが、「○○族」の定義は不明)の約45%がいいえと答えた事から、「メール族は親に甘えることができなかったと感じている子の割合が図抜けて高い」(P134)としているが(他に、「ほめられるより叱られることのほうが多かった」と回答した頻度が高いとしている)、「甘える」と「甘やかされる」は、異なる概念であろう。

P137_html_26c0dc9a_2

メール族の保護者に対するアンケートによると、小学生までに愛情不足の時期があった子どもは、「メール中毒」になりやすい傾向がみられた。(P137)

※縦軸の説明が切れているが、「就学前」である。

このグラフ、目盛りの上限が12%である。いかにも、差を強調している意図が見える。そこで再び、別のグラフを作成してみた。

P137b_html_m322f4e5_2

何度も書いているが、サンプルが無作為で無いから、このデータから、検定等によって母集団について言及する事は難しい。出来るとしても、母集団を限定する必要があるだろう。

仮に、これを記述統計的なデータと看做すとすると、調査対象の保護者の回答の構成比、としか見る事が出来ない。そこでのこの程度の差を意味あるものと看做せるかどうか、という疑問が出てくる。

肯定割合が、最大のカテゴリーでも12%以下である。従って、他の選択肢が何であったか、という所について疑問が出てくる。仮に、「肯定」、「否定」の2つであったとすると、全てのカテゴリーで90%近くがこの質問に否定的に答えたという事だから、全体としては極めて親子関係は良好である、と解釈する事も可能である(あくまで仮定)。

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どうでした?

わたし的には、こんなものが本に載り、新聞で紹介され、電子メディアの害悪を訴える著作の論拠とされる事そのものが、信じがたい話であると思うのです。

ここに載せたグラフは、あくまで一部分です。

とにかく、概念の定義が無い。何の何に対する割合かがはっきりしない。解釈が自分勝手。特に、○○族というのは、ゲーム脳や半ゲーム脳に匹敵する不明確さ。

根本的な問題として、このようなデータからは、より大きな集団について一般化するのがほとんど不可能である、と言えます。にも関わらず、魚住氏は全体の傾向であるかのごとく言い、岡田氏は、検定などしてしまっている訳です。

garbage in, garbage outみたいなもので、本来、検討にすら値しないようなものだと思うんですけどね。何故だか、鵜呑みにする人がいる。

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