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2008年9月 6日 (土)

摺り足

「すり足」ってありますね。武術や芸能でよく用いられます。

で、これが結構見られるのですが、すり足といって、本当に地面(畳でも何でも)に擦り付けるように足を運ぶ、というやり方があります。

私見ですが、すり足というのは本来、身体の重心を過度に上下動させない方法の一つとして、足の運動に意識を向かせるためにある、というものなのだと思います。つまり、足をやたらに大きく上げるとそれにつられて全身が浮き上がってしまうから、それを抑えるための足先のコントロールの方法として、すり足という概念が重視される、という。

ですが、私は、あまりそこに注目すると、却ってよくない効果が及ぶ場合もある、と考えています。

どういう事かというと、1)足先に意識が集中するあまり、その他の部分の運動への意識が疎かになってしまう、という点と、2)正確な足先のコントロールをなぞる事が出来れば、それは全身の連動も適切に行われているのを示す、と素朴に認識してしまう、という点です。

まず1についてですが、足先を動かすと一口に言っても、色々なやり方があります。足首や膝の関節を積極的に動かしてポジションを取る、という方法もあれば、股関節から大腿骨をコントロールして、足はそれに従うようにする、というやり方もある。で、より良いのは後者です。前に、脚の操作は、「釣竿を手元で操るように」というような説明をしましたが、まず股関節の操作が重要なのですね。大腿骨を回転させ、体幹を変形させる事で、移動運動を制御していく。イメージとしては、自分の足に長い棒を括り付けて、それを地面に立てて動く、というのが近いでしょうか。棒は自分で動かないから、中心の方できちんとコントロールしていかないと、倒れてしまう訳ですね。で、その棒と同じ機能を下肢に担わせるのが、重要なのです。足先に意識が集中すると、その、中心からのコントロールという運動が疎かになる可能性がある。もちろん、並行して教えるのが望ましいのですが、一部の武術家等を見ていると、上手な人の、「股関節を巧みに制御した”結果”足が大きく動かないで滑らかに動く」、という運動を外見からなぞろうと意識するあまり、表面は似ているが内容が全然異なっている、という動きをしています。わざと地面に足を擦り付けるような、身体運動としては不合理なものになってしまう訳ですね。

で、2と繋がってきます。要するに、足(膝から下)の動きさえ出来ていれば全身も上手に制御出来ているに違い無い、という「思い込み」。形(型)の内容を吟味する事無く表面をなぞろうとすると、そうなってしまいます。

確か、佐川翁がすり足について言及されていたのがあったと思うのですが、ソース失念。内容は、ちゃんと脚を持ち上げなくてはならない、というものだったと記憶しています。

重要なのは、すり足プラス、「抜き足」と「差し足」を教える事じゃないかな、と。差し足は本当は、音を立てないよう爪先で歩く、という意味みたいですが、足を地面に「置いていく」というのを表現するに良い言葉だと感じますね。抜き足はもちろん、股関節からコントロールして足を引っ張り上げるようなイメージ。

変な喩えですが――床に油を塗られていてツルツルしている。そしてその上を、裸足で歩く。着ているものは、総額8兆円の衣装で、それを汚したら弁償しなくてはならない、というシチュエーションをイメージして、その床を歩く練習をしてみて下さい。本来のすり足というのがどういうものか、何となくつかめると思います。実際、「氷の上を歩くように」とか、「足裏に薄紙一枚分隙間を空けるような」、等の教えもある訳ですね。これは、私が上で書いたような弊害をフォローするためのものなのでしょうね。

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「武術・身体運動」カテゴリの記事

コメント

中国武術でも必ず持ち上げるという動作を意識するように指導されます。「床を足で掴む放す」の繰り返しですね。動きは地面の状態により修正すればいいのですが,完全に平らな床でしか成り立たない動きをデフォルトにすると,弊害が大きいと思っております。

投稿: complex_cat | 2008年9月 6日 (土) 08:49

 非常に,興味深く,ありがたいアニメーションです。
 ところで,こういう用法(打突系の攻撃に対しての入り身,内転回)は,中国武術で合気に似た用法を考えると,非常に興味深いです。というのは下から直線的に受けるのではなく,手刀で外受け外転しながら巻き込んで斜め上から掴むように擒拿,そのまま「相手の手に粘るように捻りながら下に崩すと同時に再びスムースに掴んだ手を持ち上げて」反対の足がステップオーバーしてその下をくぐり入り身転回。陳式太極拳なら,懶扎衣〜下勢,楊式なら攬雀尾からの連続技で同じような動作が成り立ちます。お察しの通り,いわゆる四方投げのパタンと収斂的です。「太刀取り」というカテゴライズはありませんが,全て同じ技の応用という感じです。「四方投げ」も本来は太刀取りだと伺っていますが違いましたでしょうか。三教に近い用法は流石に思いつきません。
 それと「三教に極めつつ、顔面に当身を入れる。」という非常に実践的な技の解説で,これは中国武術的には,諸手による処理で進むと思います,空き手,両足による攻撃を制するのと「」の化勁で,空き手や足で攻撃できないように無力化するプロセスが二重に入っているということです。
 実際,合気上級者の技だと,掴む前後に,崩しのノウハウが内在されていそうです。

投稿: complex_cat | 2008年9月 6日 (土) 09:29

complex_catさん、今日は。

▼▼▼引用▼▼▼
動きは地面の状態により修正すればいいのですが,完全に平らな床でしか成り立たない動きをデフォルトにすると,弊害が大きいと思っております。
▲▲引用終了▲▲
本文に書いた佐川先生の言というのも、そこに関したものだったと思います。つまり、地面の形状は様々だから、脚を持ち上げて足は細かく調整しつつ状況に合った操作を行う、という事ですね。
足首は随意的に操作出来るから、そこに頼ってしまって、股関節の主導が疎かになる可能性があるのですよね。

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四方投げの由来はどうなのでしょうね。確か古流から派生したもので、色々な謂れがあるみたいであまり詳しく無いですが、現在の型としては、様々な入り方がありますね。ちなみに、太刀取りの一つとして四方投げそのものを行うのは、あまり無いかも知れません(短刀取りはありますね)。

突きに対して、逆に(内側)に入った場合は、下から右手で相手の突いた手を取り、すかさず外側に入って四方投げ、というのもあります。入った方向、手の取り方によって、技か変わっていく訳ですね。四方投げの取り方から入身して入身投げ、とか。

三教のポイントは、顔面への当身によって、1)空いている手を封じる 2)回り込みを防ぐ という所ですね。もし当身をものともせず回り込もうとしても、くぐって三教を極めれば同じ、という具合です。
三教の取り方は、下から掴んで相手の前腕を大きく回内させ、少し外側に腕を開くようにすると、当身の効果もあいまって、相手の身体は弓反りになり、大きく崩れます。

相手が小さくて(今回のリンさんのように)くぐれない場合、無理せずくぐらず、そのまま外側に崩しつつ、肘に手を当て投げを打つ(呼吸投げ)、というパターンもあります。

投稿: TAKESAN | 2008年9月 6日 (土) 12:41

▼▼▼引用▼▼▼
もし当身をものともせず回り込もうとしても、くぐって三教を極めれば同じ、という具合です。
▲▲引用終了▲▲
三教なので、こちら側に回り込もうとすると、手首がどんどん極まっていくんですね。自分で関節を極めているようなものです。で、その痛みから逃れたいと思って、身体が浮き上がります。そうすると、簡単にくぐれる訳ですね。
逆に、腕を背中側に回して逃れようとする場合には、相手の後襟が目の前にくるので、それを取って後に引き倒す、という変化もあります。

投稿: TAKESAN | 2008年9月 6日 (土) 12:57

すいません。後ろのコメントは,書き込む場所を間違えました。本来はミク嬢による三教の解説エントリに書くべきものでした。流れが寸断されるので,このまま続けますことお許し下さい。
 とても参考になりました。この方向で来る擒拿に対しては,例えば太極拳なら,搬覧捶で捕まれた腕の下から空いている方の手を差し込んで相手の腕を握り両手で相手の空き手が来る前に押さえ込むか,単鞭などで鉤手と肘の連動から相手の関節技を封じ込める流れかと思います。型通りには行かないでしょうけれど,推手の上級での攻防などでは,そういった擒拿による攻撃も想定されているようです。そういう対応に対しては,いかがされるのが合気的な解法なのでしょうか。
>逆に、腕を背中側に回して逃れようとする場合には、相手の後襟が目の前にくるので、それを取って後に引き倒す

これもなるほどと思いました。後襟を掴むというのは,思いつきませんでした。

 固定的な詰め将棋ではなく,飽くまでイメージでの戦闘ですが,自分ならそこで陳氏の閃通背で襟元を捕まれた瞬間にその後襟取りの手を上から後ろ首と挟んで押さえ,前に急速に前屈しながら反対の足を後ろに移動しながら背負い飛ばすか,或いはのど元を搔き切られないように前屈,次の瞬間に転身して前掃腿(といっても少林拳のように低い姿勢で行うものではありません)で振り飛ばすという応用技が思い浮かびました。
 陳氏太極拳の場合,一見難解で特殊な状況を想定している技に見えて,基礎的な攻防技術に応用が利くように作られているものが多いと云うことを再確認できました。使えるかどうかはその人の功夫次第ですが。私もミク嬢が使えればいいのでしょうけれど,個人的には,Webのテキストでの指南を伺うのもちょっと実験的で面白いかと思いました。よろしくお願い申し上げます。

投稿: complex_cat | 2008年9月 8日 (月) 00:31

これは面白いですね。良い思考の訓練にもなります。

えっと、最初の方は、すみません、私は太極拳に疎いので具体的なイメージが乏しく、現在、套路を鋭意調査中であります。多分、後で付け加えます。

襟取りについては、なるほど、頭部で押さえて前方に投げる、というのは興味深いですね。

もちろん理想としては、回り込んだ瞬間に投げる、というのが望ましいですが、遅れてしまった場合には、そうですね……

1)間に合えば、膝裏を踏んで折る

2)襟の手がはずせなければ、三教に取っていた手を離して立て直す→脇腹等に当身(手・肘・体当たり)とか

3)手首を利かせて(バイクでアクセルを吹かすような要領)三教に極めた手をそのまま極め上げる(屈めば益々極まる)

等が考えられるでしょうか。

もし腕を後方に捻り上げる事が出来れば、回転投げ状の技に持っていくとか。襟を取った手がどれくらい自由に出来るか、にもよりますね。

参考資料:回転投げ(You Tube あんまり鮮明じゃ無いですね)⇒http://jp.youtube.com/watch?v=Vv9xa7C-lKc
もし横に出る事が出来れば、これの変形に入れるかも。

相手の身長にもよりますね。高いほどやりやすいですね。

投稿: TAKESAN | 2008年9月 8日 (月) 02:05

もちろん本来的には、後襟を取る時点で、相手の身体を弓反りにさせている、というのが肝要です。そうすると、前に屈もうとする運動そのものが、非常に困難になる訳ですね。

ちょっと関係する余談。

入身投げはご存知かと思いますが、あれの基本は実は、後襟を取って引くのですね。深く入身して(浅いと充分回り込めず、頑張られてしまい、反撃も食らいやすい)、相手の真後ろに引く。これなら、小指一本でも、抵抗されずに崩せます。
入身投げというと、首に掛ける腕が目立ちますが、基本的には、後への崩しが重要。高度になると、また変わってきますけれども。

投稿: TAKESAN | 2008年9月 8日 (月) 02:41

すいません、結局、具体的なイメージが形成出来ず…。

変化としては、角度によって、小手返し・四方投げ・腰投げ 等に移行する、というのが一般的かと思います。後、取られたのを利用して入身する、とか。内側に深く入って体当たり気味に呼吸投げ、というのもあるかな。

投稿: TAKESAN | 2008年9月 8日 (月) 11:09

武技で背後をとられるというのは決定的に不利なわけで,こうなると,難しいですね。跳ねっ返りの私が抵抗するとなると,

1)タンブリングして前転,身体を入れ替えて後方への蹴り。相手の顔や胴体急所には届きませんので狙う場所は自分の捕まれている腕の延長線上にある,相手の腕そのもの,その急所を攻撃する。回転投げの体勢に入ることで逆に利用するわけですが,難易度が高い外連技で太極拳的理合からは外れます。入り身投げの時も角度から言って後に受け身しながらバク転気味での後頭部への蹴りは,隙のない方の場合,当たりませんね。
 そもそもそういう体勢に持ち込まれないことが重要なので負け惜しみみたいな技です。

2)システマに同じスキルがありましたが,あいている方の腕を襟取りに来た腕の下から差し込んで外す。このとき捨己従人で相手にどのくらい上手くもたれかかって技を使えなくするかと云うことが重要になるかと思います。相手の技のレベルが低ければ脱出の機会はあるでしょうけれど。

 投げる方もその後の相手からの反撃が想定される場合には,顔面や後頭部から落とすようなコントロールが可能ですね。合気に熟達された方と本気でやって投げられた気がいたしました。手を合わせる段階で有利になるように処理できなければ,相手が技に入ってしまったら防ぎようがありません。


>入身投げというと、首に掛ける腕が目立ちますが、基本的には、後への崩しが重要。高度になると、また変わってきますけれども。

 なるほど,そうやってみると,技のポイントがよく分かりました。衣服の袖で相手の突きを絡めるという用法はありますが,柔道などの基本襟をとるという技が中武にはあまりありません。興味深いです。
 イメージとしては陳式の看板技,金剛搗捶で相手の突きを巻き込んで裏返し,後に崩しながら肘や裏拳を降らせる前の崩しにそのまま使えそうです。功夫がないと巻き込んでも容易に裏返しできないので,導入としては金剛搗捶の流れで行くと裏膝をやっぱり蹴ったりつま先の急所蹴りが入ります。入り身投げのイメージが金剛搗捶の変化技としてそのまま使えます。その場合も入り身投げで投げ落とすときに,相手の後頭部を地面ではなく,自分の膝にぶつける形,あるいは後襟による崩しに使われる腕の裏拳あるいは肘が金剛搗捶の用法の極めです。
 ちなみに,沖縄剛柔流にはほとんど全く同じ技があります。南拳の流れを汲む空手ですが,「カキエ」など,剛柔流には,太極拳の推手同様の練習体系があり,両武技の収斂現象かあるいは共通祖先形質か個人的に大変興味深いです。

 変な話ですが,入り身投げから金剛搗捶に技が脳内変換できて合気の理解が進みました。理合も風格も違いますが,コア部分は収斂現象がかいま見られるという気がして参りました。金剛搗捶が発動するときには,既に相手が死に体になっていると云うのが前提ですので,それから逃れられないのは,入り身投げから逃れられない状態と同じです。

 ご教授有り難うございました。

投稿: complex_cat | 2008年9月 8日 (月) 13:06

complex_catさん、今日は。

やはり、人間の身体構造を合理的に利用して相手を制する、という目的を追究していくと、収斂していくのでしょうね。大変興味深いです。

後襟を取って崩す、というのは結構ありますね。もちろん、相手は襟を取られるのを待ってはくれない訳で、素早く深く入る入身が肝要になってきます。「回り込めない」ように、手を四方投げと同様に取りながら後に回って襟を取る、というのもあります。
たとえば交差取り(同じ側の手を取る)からの入身投げだけでも、四種類くらいは入り方があるんですね。相手の身長や掴む強さによって使い分けたり。

高度になるとまた違う、というのは、段階によって技が変わってくるという事で、レベルが上がってくると、相手の身体にほとんど触れずタイミングで倒す、というようになってきます。その真髄を見せてくれているのが塩田先生の演武ですね。
あまりにも小さく精妙なために解りにくいですが、しっかり入身してタイミングを合わせて、首に腕や手を当てて投げています。もう、芸術の域ですね。

合気道では、固い稽古・基本の稽古~気の流れの稽古 という段階を踏むシステムになっていて、とても合理的です。

これは余談ですが。
上でリンクした回転投げ。これは、相手の腕を後に回転させると上体も傾く事を利用し、頭を上から押さえて動きを制して、前方に投げを放つ、という技なのですけれど、動画では省略されていますが、実はこの技、頭を押さえた時点で、顔面に膝で当身が入るんですね。
意外に思われるかも知れませんが、片手取りからの呼吸投げの変化で、相手の背中に膝を当ててグイッとやるのとか、そういうのも技にあるんですねえ。足の甲に拳骨で当身とか、結構えげつないのも(笑)

投稿: TAKESAN | 2008年9月 8日 (月) 14:33

塩田剛三翁が,ある空手家が,他流試合を一手ご指導いただきたいと行ってきたので,座敷に上げて,話を聞かれていたところ,その空手家が
「では,今ここで」
と言った瞬間に喉をえぐって悶絶させたという話がありましたね。その後で,
「ふむ,若いな」と仰ったとか云う話を懇意にされていた板垣恵介氏(バキの作者)が書いておられましたね。

 本当の意味で武技なら意外とは思いません。
 合気の打撃法も,興味深いですね。逆に,余計なものがない感じが致します。

投稿: complex_cat | 2008年9月 8日 (月) 22:47

塩田翁には色々なエピソードがありますね。合気道修行とか合気道人生とか、板垣氏の本とかで、紹介されてますよね。

合気道の当身は、剣術の体捌きをそのまま無手にする、というものなので、理念的には、黒田氏の所なんかと共通しているのかも知れません。打撃を専門的に体系に組み込んでいる所はほとんど無いでしょうね。その意味で、極めとして当身を使う局面は必ずしも想定していない訳ですが、塩田翁のようなケースだと、実戦経験も豊富ですし、理合を高度に体現したという稀有な例なのでしょうね。

合気道の仮当ては、相当に合理的だと感じます。勉強するほど、なるほどなあ、と思うんですよね。
ここだけの話、会派によっては当身を疎かにしている所もあるようで、相手を合理的に制するという面から見た場合にどうだろうな、と。
当身など要らない。合気で動けなくするのだ、というのは理想的ではありますが、理想が過ぎる気もしますね。

当身や崩し、変化技を総合的に駆使して、相手の動きに応じていくのが重要ですね。

…おっと、ちょっと書き過ぎました。

投稿: TAKESAN | 2008年9月 8日 (月) 23:41

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