Wikipediaに突っ込みを入れる
Wikipediaの「合気」の項について、科学的あるいは論理的に、突っ込みを入れてみます。そりゃ文脈無視なんじゃないか、とか、細か過ぎるのでは、と言われそうな所も、敢えて。Wikipediaって言うか、そこで引用・紹介されている説に、と言った方がいいかな。
合気 - Wikipedia(最新版: 2008年6月8日 (日) 02:27)※以下、文字修飾は はずして引用します。
筋力に頼らずに
この表現は、よく用いられるが、実は不明確である。人間が運動を行うには一般に筋収縮が必要であるし、もし、「無駄な筋力」などの含意があるとすると、それはトートロジカルなので、説明としては不足していると言える。
佐川幸義の弟子にあたる吉丸慶雪によれば、合気とは屈筋の緊張を伴わない伸筋の力を使って相手を倒す技術である。彼は合気を「相手に掴まれたとき、掴まれたままその接点を利用して、純粋張力(呼吸力)を用い相手を崩すこと」であると定義する。
屈筋の緊張を伴わない伸筋の力、という意味が不明。バイオメカニクス的にどういう状態を指すのか。文字通りにすると考えるならば、各関節は伸展しかしてはならない事になる。そのような論理は全くナンセンスである。
佐川幸義に師事した物理学者、保江邦夫によれば合気は「自分の神経システムに発生させた神経電気を微弱帯電として利用することで敵の神経システムの機能を停止させ筋肉組織に力が入らなくさせる」ことをからくりとする武道の究極奥義である。尚、その神経電気は精神的内面を無の境地にもってゆくことで前頭葉運動野における意識的精神活動を小脳における無意識的神経活動に限りなく同調させた結果として生じるという。
疑似科学的。既存の科学的概念を用いているが、ほぼ意味不明。仕手がいかにしてそのような電流を発生させるのか。それをどう伝達させるのか。スタンガンのような仕組みで無いとすると、発せられるのは、運動機能を狂わせるような情報を持った電気信号でなければならない。その微弱な電気信号が仮に発生出来るとして、何故それが特異的に効力を及ぼすのか。何故接触している手等から伝達出来るのか。
神経生理学的にどのようなメカニズムを想定しているのか。仮にそのような電気信号を道具を用いずに発する事が可能であるとして(この時点でかなり無理な前提)、それを相手に伝達させられるとする。それは、戦闘状況においても普遍的に使えるか、つまり汎用的であるか。(て言うか、ありえないくらいダメな説明ですよ。本当に物理学者なの?)
岡本正剛は合気の原理として円運動・呼吸・反射という三つを挙げている。円や螺旋の動きで相手の中心を崩し、自由を奪う。ただしこの円運動ははっきり外から見える運動とは限らず、上級者になると身体内部で処理される。円運動で相手の人体の反射をひきおこし虚の状態を作り出す。そこから相手の重心を崩す。この動きの中に呼吸の力を用いることによって合気は威力が引き出される。
円とは何か、螺旋とは何か。それが普遍的であるとはっきり言えるのか。身体内部で処理される「円運動」とはいかなるものか。反射とは何か。生理学的なものか、心理学的な条件反応か。呼吸の力とは何か。生理学的な呼吸といかなる関係を持つものなのか。
合気を武術の技として考えるならば、本気で抵抗する相手に技をかけられなければ意味はない。しかし素直に技にかかり、合気の感覚を掴もうとすることが上達のための一つの手段であるとする考えがある。逆にそのような稽古には意味がなく、できるだけかかりにくい状況での稽古がお互いにとって最高の稽古であるという考えもある。
両方用いれば良い。
こんな感じかな。
武術関連の項目としては、結構よく纏まっていますよね。色々な説を併記していて。
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コメント
TAKESANさん こんにちは。
要点だけ抽出すると保江氏のだめっぷりはわかりやすすぎですね。
以下パロディです。
佐川幸義に師事した物理学者、保江邦夫は、”合気は「自分の神経システムに発生させた神経電気を微弱帯電として利用することで敵の神経システムの機能を停止させ筋肉組織に力が入らなくさせる」ことをからくりとする武道の究極奥義である”と妄想している。尚、その妄想は精神的内面を無の境地にもってゆくことで前頭葉運動野における意識的精神活動を限りなく低下させた結果として生じるという。
投稿: グレートパンダー | 2008年8月20日 (水) 19:53
グレートパンダーさん、今晩は。
ああいう意見が「物理学者」のものとして採り上げられたりするのでしょうねえ。何とも微妙です。
科学的には、生理学的反応や心理学的論理をまず考えるべきだと思うのですが、何故か、飛躍してしまうんですよね。尤もらしい単純な原理を求めたい、という事なのかなあ。
て言うか、佐川翁の弟子だった人達が何人か、かなり微妙な「理論」を発表してますけど、ああいうのって、佐川翁が凄く嫌っておられた事なんじゃないですかね。門外ながら、そういう所を考えると、なんともいえない気分になります。長野氏の批判にも同意出来る部分がありますね。
投稿: TAKESAN | 2008年8月20日 (水) 21:27