記事の見方
Interdisciplinary: 子どもとゲームと親の続き。
PSJ渋谷研究所X: 子どもとゲーム:実は「ゲームが問題」ではないことも-1
大変丁寧な読み解きだと思います。皆さんも読みましょう。
私が思うに、ゲーム脳を、「批判”も”ある説」として紹介するのは、100mで14秒台しか出ていない選手を、オリンピックに出られるぎりぎりの所にいる選手かのように紹介している、ようなものなのですね。そういう人を、「うーん、もう少し調整が進んでコンディションが良ければ、オリンピックも夢では無いのでは」、と紹介するようなもの。だから、そこはしっかり書く「べき」。ゲーム脳というものを紹介するのであれば。
新聞記事の評価は、2つの見方があると思います。
一つは、現状を鑑みて、どれくらいの仕事をしたか、という所。ある状況における相対的な評価、とでも言いましょうか。つまり、他の新聞記事がろくでも無い屑のような記事を書いている今の状況から考えると、バランスを取ろうという書き方が見えて、頑張っていると評価出来ます。
もう一つは、世間に情報を周知する、というメディアの基本的な役割を考えて、最低このくらいはやらなくてはならない、というラインを越えているかどうか、という見方。ゲーム脳の場合だと、それが全く考慮に値しない愚論だという事を正しく伝えるか、という所ですね。
また100m走の喩えを出すと、前者は、他の人達が11秒台で走っている所、10秒31を出した、という感じですね。当然、新聞記事のレベルとしては、10秒を切るかどうか、というパフォーマンスを見せてしかるべきなのですが(2つ目の見方)、現状では他に抜きん出ているからそれは評価しよう、という考え方。
と、そういう異なった評価軸を考えて、今の状況でああいう特集を書くのは興味深いけれども、記事そのもののレベルとしてはそれほど高いものでは無い、というのが、今の私の感想ですね。
後、思うに、「ゲームが脳に与える影響」についてどのくらい調べられているか、というのを紹介する前に、「脳に影響を与えるとはどういう事か」、というのを特集するのも良いかも知れません。新聞記事で、それ自体を検討したり、神経神話批判をするのは、それほど多くは見られない事でしょうから。
それと、ちょっと細かい所ですが。
ゲーム体験が脳に悪影響を与えるなどという学説は存在しない。そのようなことを主張しているのは、森昭雄ただひとりである。その主張も、学説の体を成していない。そのために、森とその主張は批判されている。
「ただひとり」と言うのは、ちょっと難しいですね。「脳に悪影響」、「学説」をどう捉えるか、というのがポイントなのでしょうけれど。脳内汚染なんかは、様々な研究を寄せ集めて適当に解釈し、それを一つの学説のように主張している、というものですしね。意味合いを広くとって、ゲームが脳に悪影響を与える、という趣旨の発言をしている人、あるいは、森氏の主張に賛同する人、と考えると、自分の学説に付随させるかたちでゲームの害悪を唱える人も含まれますね。大友氏なんかは、まさに森氏と軌を一にする人です。
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コメント
おお、すびゃやい(@@
ご指摘の点、ごもっとも。ちと直しましょう。
投稿: 亀@渋研X | 2008年7月22日 (火) 03:51
亀@渋研Xさん、今日は。
何書こうかなあと思って考えてたら、そちらでエントリーが上がっていたので、言及しました。
森氏周りだと、親学繋がりとかで、同調している人がいますしね。後、ラジオが脳に良いと言った人も、ゲーム脳には比較的肯定的でした(批判がある事自体は書いていましたが)。
---
追伸
読売記事、読みました。とても良い内容だと思います。
私は、養育者がゲームに無関心・無理解なのが問題だろうな、と思っています。後、これは印象ですけれど、自分が真剣にゲームをやってきた養育者は、子どもにゲームをやらせる時は、とても慎重になるようにも感じます。これはやらせるべきか、見せずに隠すべきか、とか。
子どもは、「大人は自分が好きなものにどのくらい興味を持っているか」、という所に敏感なものですね。これは、どんな趣味でもそうだと思うんです。
子どもが一番嫌いなのは、「頭ごなし」なんじゃないかな、と。
投稿: TAKESAN | 2008年7月22日 (火) 12:30
こんばんは、TAKESANさん。
このカテゴリの話題とは少々外れて申し訳ありませんが今、たまたまTBSを見ていたら、中3少女が父親を殺した事件を知っておいでだと思いますが、その事件について、少女が殺人をしている漫画を読んでた、と報道してました。その漫画もモザイクつきで映していましたが、やはりというべきか、「ひぐらしのなく頃に」シリーズであることはすぐ分かりました。何が何でも漫画と結びつけようとする腐った根性はどこから出てくるのでしょうか・・・。私も全部でないですが、ひぐらしの漫画とアニメを所持してます(原作ゲームは持ってませんが)が、私は殺人予備軍ということになるのでしょうか(笑)
あの様子だと、もし殺人をしたり殺人描写があるゲームをその少女が所持していたら、高確率でゲームの影響だと報道するのではないかと思います。
投稿: バートレット | 2008年7月22日 (火) 18:27
バートレットさん、今晩は。
またもや、ですか…。相変わらずですね。どうしても、「原因」を探りたいのかな。
私は、犯行の「原因」を解明してそれを周知する、という事自体が、ほとんど無意味だと思っています。そもそも、その解明自体が可能かどうか判らないほど困難な事ですし、仮に出来たとしても、ある個人にとっての原因を知ってどうするのだろう、と思います。犯罪を起こす可能性がある物事を悉く排除しようとすれば、人間は存在出来なくなってしまうのですし。
だから、集団のデータを採って統計的に考えて影響を評価するのが、重要な訳ですね。
投稿: TAKESAN | 2008年7月22日 (火) 18:57
お早いお返事ありがとうございます。
>犯罪を起こす可能性がある物事を悉く排除しようと
>すれば、人間は存在出来なくなってしまうのですし
その通りだと思います。マスコミなどのメディアはそのことになぜ気付かないのでしょうかね。
あ、今NHKでも小説・漫画数十冊押収、と言いました。もうNHKなどに受信料払いたくないよ・・・。
この調子だと私がリンク先として貼り付けたこともある痛いニュースさんのサイトでも取り上げてくると思います。
14歳の少年がバスジャックを起こした事件に関しても同じような報道するのではないかと考えていましたが、今のところはないようですね。
投稿: バートレット | 2008年7月22日 (火) 19:22
こんにちは。
昨日の第4回はなかなかいいなあと思ったのですが、今日の第5回でまたわからなくなりました。第4回を見て、慌てて喜びのエントリなど上げなくてよかったかも、なんて思ってしまいました。送信コメントにも書きましたように、「読者の認識に揺さぶりをかける」といった目的でもあるのかしら、という感じです。
次の週末までの分を通しで読んで、再度評価してみる……といったところでしょうか。
投稿: 亀@渋研X | 2008年7月23日 (水) 10:52
バートレットさん、今日は。
読売にも記事が出ていました⇒http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080722-OYT1T00857.htm?from=main5
現段階でこのような情報を広める意味が解りません。
凶悪事件が起こるたびに、起こったという事実しか明らかになっていない段階なのに、「またゲームやアニメのせいにされるんじゃないか」、と懸念され、それが実際にそうなる、という事そのものが、とても異様だと思います。
------
亀@渋研Xさん、今日は。
妥当な記述と印象の誘導が入り混じっている、という感じにも見えました。
こういう文脈で言われる所の「直接体験」が重要なのはその通りなのですが、それを主張するために、冒頭のエピソード等は要るのかな、と。
ゲームをやらせないという方針は、良いんですよね。それこそ、各家庭の問題ですから。でも、その理由が、たとえばゲームの悪影響を鵜呑みにしている、というものであったとしたら、それは困る事ですね。もちろん、それぞれ違うでしょうけれど。何かを「やらせない」という考え方は、その何かを「やらせている/やっている」人に嫌悪を懐かせる虞もありますので。
投稿: TAKESAN | 2008年7月23日 (水) 13:14
アルファさんのブログ経由(特集。バックナンバーあり)⇒http://mainichi.jp/life/edu/mori/index.html
何の偶然か(金川や加藤の事件によって「ゲームの影響」が取り沙汰されたから、かも知れない)、読売と同じような特集が組まれているので、対比して見るのも興味深いかも。
ちなみに、結構感情を抑えています。読売の記事が圧倒的に優れているように思える。
投稿: TAKESAN | 2008年7月23日 (水) 16:32
第一回の記事より⇒http://mainichi.jp/life/edu/mori/news/20080722ddm002100096000c.html
▼▼▼引用▼▼▼
広島市の主婦(36)は昨夏、レストランで目にした4人家族の姿が忘れられない。メニューの注文が終わるや、全員が一斉にDSの画面を開いてゲームを始めたのだ。「それでおいしいのかな」。今も違和感は消えない。
▲▲引用終了▲▲
おいしいかどうか、なんて余計なお世話だって。
一応書いとくと、私は、レストラン等の飲食店で携帯ゲームをするのは、基本的に※「行儀が悪い」と認識する方です。でも、だからといって、その行為自体の良し悪しを論ずるのは、ちょっと待った方がいい。電車でケータイ、なんかとも通ずる所かな。「おいしいのかな」、って、きちんとコミュニケーションが取れているのか、という疑問からの推測でしょ? 携帯ゲームの画面に目を向けている光景を、コミュニケーションが良好で無い事の象徴として見ているんじゃないかな(つまり、マナーの話でも無い)。これを一般に、「偏見」と言います。
まあ、そういう印象を持つのは、ある程度は仕方が無いんでしょう。でも、それは、記事にわざわざ載せるような意味あるケースなんですかね。
※基本的に、だから、今後変わるかも、という事ですが。
投稿: TAKESAN | 2008年7月23日 (水) 16:50
こんばんは。
この連載、なぜか第1回は「まんたんウェブ」からもリンクされていますよね。毎日が何を考えているのか、正直理解に苦しみます。
取り上げられてる個々の事例については、「個人的な体験」が中心ですので連載が終わるまで判断を待ちたいと思いますが、子供への普及に関して、DS,PSPがクローズアップされてGBに触れていない内容に疑問を感じました。
投稿: thotc | 2008年7月23日 (水) 19:51
thotcさん、今日は。
どうやら、毎日はダメなようです⇒http://mainichi.jp/life/edu/mori/news/20080724ddm002100083000c.html
見る人にもよるでしょうけれど、私は、読売の記事の時にも書いたように、ゲーム脳を一説として全否定以外で採り上げるのは、全くダメだと思っています。
神経科学や疫学方面の研究が不十分である、という書き方なのに、ネガティブな方向に誘導しているようにも思えます。
投稿: TAKESAN | 2008年7月24日 (木) 13:24
可能性としては、次回以降、ゲームの有効活用を紹介する、というのはあると思います。シリアスゲーム方面の話とか。バランスを取るために。
しかし、ゲーム脳が出ている時点で、もうダメです。これは、「興味深い科学的仮説」として水伝を紹介するのと同じくらいのダメさ加減なので。
投稿: TAKESAN | 2008年7月24日 (木) 13:30
読売の記事、無難で穏当な結び方でしたね。
投稿: TAKESAN | 2008年7月24日 (木) 14:12