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2008年3月21日 (金)

伝言ゲームのように

はてなブックマーク - 「Apple」のロゴを見るだけで創造性が上昇――デューク大学調査 - ITmedia News

元ネタ⇒「Apple」のロゴを見るだけで創造性が上昇――デューク大学調査 - ITmedia News

やっぱタイトルがおかしいよね。

最後の段落にある研究者の弁も、こういう類の研究から言うのは早計なのではないか、と思いますけれど、それにしても、

ブランドのイメージは想像以上に人々の潜在意識に大きな影響を及ぼすことが、調査から明らかになった。

という研究結果から、

「Apple」のロゴを見るだけで創造性が上昇

という見出しをつけるのは、ものを注意深く見る読者からは、懐疑の目で捉えられるでしょう。

ところで、はてブには、

あっはっは。被検者にすでにバイアスかかっとろうが(natsumotoさん)

カルトって怖いな(nam323さん)

どれだけ膨大なデータを見せられてもおそらく信じられない。(Kmusiclifeさん)

等の反応があって、かなり否定的ですが、この記事の内容からだけでは、そういう評価は導けないんじゃないかな、と思いますが、どうでしょうか。

この研究の肝は恐らく、識閾下の刺激が行動に影響を及ぼす、という所なのでしょうけれど、そういう現象自体は、あって構わない訳です。映画の途中にコーラの画像を入れたらコーラを飲みたくなる的なサブリミナル効果については、科学的には支持されていなかったと思いますが、潜在記憶等は、心理学的にも認められている訳で。改めて研究したら実は影響、というのは、あって良いですよね。

だから、この研究を批判的に検討するには、実験計画はどういうものであったか、とか、創造性を測るテストは妥当性・信頼性が確認されているものなのか、とか、そこで測られた「創造性」というものが、私達が普段用いる「創造性」と どれくらい一致するか、とか、Appleのロゴを見せた学生は、そのロゴに対して「創造的」という意味を見出していたか、とか、「創造性」を想起させる記号を見せられた人間が、課題でより創造性を発揮したのは何故か、とか(「創造的」って文字を見せたら創造的になるの? 識閾下で無い刺激を与えても創造的になる?)、群間にどれくらいの差があったのか、とか、それは実質的に意味があると言えるのか、とか、その研究からマーケティング方法まで言及するのがどれくらい妥当か、とか、そういう所から、きちんと考えなくちゃらないないのではないかな、と。

オカルトのタグつくとか、「カルト」と表現するのは、何か違うんじゃないかな。この記事だけからじゃ、そんなのは言えないと感じます。

そう思いません?

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以下、個人的な、この記事に対する感想。

「正直な」、という意味を想起させる記号が、「正直な行動」を取らせるのは、まあ、何となく、解らなくも無いです。だけど、「創造性」を想起させるものが、実験環境という限定的な場において、人間を「創造的にさせる」というのは、どう考えても意味が解らない。だって、創造性なんていうのは、そうなれと指示されてなれる、というものでは無いでしょう? 「慣習に従わない」というイメージが、「型にはまらない」行動を促し、それが結果的に、「創造性が高まった」と看做された、とか? よく解らんですが。

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どっちも未読っ。

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※これはネタです。上の本と対照的なので、貼ってみた。

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コメント

↑PSJ渋谷研究所Xも参照してね。とても参考になります。

投稿: TAKESAN | 2008年3月21日 (金) 11:24

なんか、七田っぽい話ですねぇ(笑)

創造性かどうかはともかく、人は無意識レベルの記憶によって行動を左右されることがある、って言ってるわけですよね。

創造物が人に与える影響を実験してみようって姿勢はいいと思うんだけど、突込みどころのある状態で発表するなよ、と思いました。

投稿: A-WING | 2008年3月21日 (金) 11:28

本文修正。

識閾下、でした…。閾域下って、どう読むんだろう(←自分で書いておきながら)。

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A-WINGさん、今日は。

こういう場合は、きちんと知らせる、というのが必要だと思うんですよね。詳細を説明しなくとも、慎重に書くくらいの工夫は出来るはずで。

サブリミナル効果については、こちらが解りやすいですね(坂元章氏の文)⇒http://www.hss.ocha.ac.jp/psych/socpsy/akira/media/sub.htm

本も出しておられるのですが(前に遊鬱さんが書評してました)、まだ読んでないなあ。図書館にあるみたいなので、読もう。

投稿: TAKESAN | 2008年3月21日 (金) 11:37

上の本の書評がありました⇒http://ci.nii.ac.jp/naid/110002785355/

やっぱ、はてブの反応には、ちょっと気が早いんでない、というのが結構あると思うんですが、どうでしょう。

尤も、識閾下刺激が行動に顕著に影響を与える、という説を慎重に考えないといけないのは、確かなのだろうけれど…。

投稿: TAKESAN | 2008年3月21日 (金) 12:06

単にカラフルな色の画像は創造性を刺激するという話なだけ。赤い色を見ると○○と同じこと。
 
ロゴとかブランドとか関係ない。

どうせ、カラフルな画像なら同じ結論になる。

投稿: あ | 2008年3月22日 (土) 13:05

そのように断定的に仰るという事は、知覚心理学か何かの専門家でいらっしゃると見受けました。

是非、そのように断言出来る根拠を、ご教示頂きたいです。

私は、科学とは、社会一般に「どうせ」と思われる事を、実証的方法を用いて徹底的に調べ上げた結果構築された知識の体系、および、その社会的営みの事、だと思っております。

投稿: TAKESAN | 2008年3月22日 (土) 13:32

こんにちは。
遅ればせですが、復活おめでとうございます。

ことの真相はともかく、コメント群と記事と発表の「表現に対する不誠実さ」が、とても気にかかりますね。
意識してやっている部分と、気づいていない部分とがあるんでしょうけど、「感度が低い」とか「わかってない」ってことではない部分がかなりありそうに思うんですよね。なんだろうなあ「より多くの人に読まれる表現が勝ち」「目立つのが勝ち」で、正確さや誤解されやすさとかはどうでもいいみたいな……。
「マーケティング(と)心理学」なんて肩書きを見ちゃったせいかもしれませんが。

で、これが「言及しないでほしい」とか「人の好みに文句つけないでほしい」とかいう話と、どっかでつながっているような気がしてしかたないです。

投稿: 亀@渋研X | 2008年3月22日 (土) 13:37

亀@渋研Xさん、今日は。

ありがとうございます。記憶装置はどうも無かったので、良かったです。

目立たせたい、というのは、マスメディアの報道を仕方を見ていると、よく感じます。つかみ、と言うか。本のタイトルとか帯なんかもそうなのでしょうけれど。
もちろん、ある程度はアリだと思うのですよね。だけれど、せめて本文(にあたる部分)では、きちんとした説明をする、とかはして貰いたいとも思います。研究者の発言も。夜中に関連記事を貼った、茂木氏とかもそうですね。

はてブの反応は興味深いです。はてブコメントならではの書き方っていうのもありますよね。

ここでの問題は、サブリミナル刺激が行動にまで顕著に影響を与えるのかどうか、という所なんだと思います。もし差があるとして、それはどういうメカニズムによるものなのか、とか、現代心理学の知識からはどう説明し得るか、とか。私も懐疑的ではあります。

投稿: TAKESAN | 2008年3月22日 (土) 14:12

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