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2008年3月 9日 (日)

『ゲーム脳の恐怖』を読む(6)

※引用文で、丸囲み数字等は、適宜修正します。

・半ゲーム脳人間がゲームをしているとき(図17)

本節以降、それぞれのタイプ(森氏の分類による)の人が「じっとしているとき」および、色々な種類のゲームをプレイしている時の脳波(正確には、森氏の簡易脳波計によって測定されたもの)に関するグラフが、森氏によって解釈されていきます。以下、「α波」、「β波」としているのは、あくまで、森氏の脳波計によるものである、という事を、強調しておきます。表記を替えると記述が煩雑になるおそれがあるので、本書に従います。

※森氏の主張する各タイプ(ビジュアル脳・半ゲーム脳・ゲーム脳)に関して、「どのように判定するか」、というのが、示されていません。前節までに、「こういうパターンならこのタイプ」、という説明がなされただけです。以下、○○タイプはこうであった、と書く部分は、「森氏がそう言っている」という意味で、お読み下さい。

まず、「半ゲーム脳」です。

ここでは、「半ゲーム脳人間タイプの人が携帯型ゲームの積み木合わせゲームをおこなったとき」(P78)のグラフが示されています。グラフは、横軸に時間(単位:分)を取ったグラフ2種です(縦軸に、α%・β%を取ったグラフおよび、β/αの値を取ったグラフ、の2種類)。「積み木合わせゲーム」について、具体的なタイトルは示されていませんが、『テトリス』系のパズルゲームであると思われます。

森氏は、ゲーム開始後1分の所でβ%の値が激減し、β/αの値も、1分後にほとんど消失している事を示します。そして、「ビジュアル脳人間タイプ」の人のグラフ(本書24ページのグラフ)と比較します。半ゲーム脳タイプは、β%グラフは、初め20付近を推移し(ばらつきが大きいように見える)、ゲーム開始から1分経過後に、0近辺まで低下する。ビジュアル脳タイプでは、β波は初め40辺りを推移し、やはり、ゲーム開始後に減少します。森氏は、ビジュアル脳タイプの人が、ゲームを止めると元に戻る、という所を強調します。

ここで、図17(P79:「半ゲーム脳人間がゲームをしているとき」のグラフ)の説明文を引用しましょう。

テレビゲームを始める前からすでに、脳の働きが低下しています。下図をみると、脳の働きが0以下になっていることがわかります。24ページの図1の人と違い、ゲームをやめてももとにもどっていません。

この記述を見れば解るように、森氏は、自身の脳波計によって得られたデータのみを元にして、「脳の働き」に言及しています。他の根拠、たとえば、心理学的な検査や、他の画像診断等のデータは、一切示されていません。その論証を全く疎かにしたまま、森氏は、簡易脳波計によるデータを、「脳の機能の程度」を反映するものとして、使っている訳です。

・ゲーム脳人間のソフトによる違い(1)(図18)

・ゲーム脳人間のソフトによる違い(2)(図19)

ここでは、「ゲーム脳人間タイプの人」の、(A):開眼安静時 (B):積み木合わせゲームプレイ時 (C):「格闘技ゲーム」(P80)プレイ時 (D):ロールプレイングゲームプレイ時(図19では、「ダンス体感シミュレーションゲーム(P81) )  のそれぞれのグラフが示されています(それぞれ、6分間の記録)。図18と図19で、異なる人のデータが載っています。カッコ内にある通り、図19のグラフDは、ダンスゲームプレイ時のデータです。

まず森氏は、D(図18)グラフについて説明します。Dは「ロールプレイングゲーム」のプレイ時と説明されていますが、森氏の説明によれば、「そのゲームソフトは、ホラー映画的な要素のある非常にリアルなテレビゲームです。」(P80)との事です。しかし、(解釈にもよるが)一般的なロールプレイングゲーム(参照:ロールプレイングゲーム - Wikipedia ※Wikipediaの記事は、あくまで参考資料として示します)で、ホラー的な要素があるものは、それほど多く無いように思われます。○○ゲームをプレイしている時のデータを採るのですから、普通は、いわゆる典型的なソフト(最もポピュラーなのは、『ドラゴンクエスト』シリーズや『FINAL FANTASY』シリーズでしょうか)を題材にするのが、妥当であると言えるでしょう。そして、P19に、

「最近発売された、ホラー映画のような恐怖を感じさせるテレビゲームで、敵にみつからないようにいろいろな部屋に進入して武器を獲得し、相手を殺しながら勝ち進んでいくというものがあります。」

という説明がある事から、このゲームを「ロールプレイング」と認識している可能性があります。更に、P104に、

 ロールプレイングゲームにもいろいろな種類がありますが、前頭前野の活動を増大させたソフトは、単にファンタジー的なものではなく、ホラー映画のような、スリルと恐怖感を抱かせるものでした。自分が敵にみつかって殺されないように敵陣に進入し、相手を威嚇しながら画面上で突き進んでいくというゲームだったのです。

このような記述がある事からも、森氏がゲームのジャンルについて知識をほとんど持っていない可能性は高い、と思われます。上記引用文の後段にある説明がなされるようなゲームは一般的に、「アクション」ゲームと称されます。メーカーによって、また、ジャンルの細分化によっては、異なる呼称が用いられる場合がありますが、最も大まかな分類を用いれば、アクションとするのが妥当な所でしょう。少なくとも、「ロールプレイング」に含めるのは、一般的ではありません。

これらを踏まえると、森氏は、「ゲームが脳に与える影響」を研究していると称しているにも拘らず、ゲームの具体的な部分についてはかなり無知な可能性がある、と言えるでしょう。ここは、そもそも研究対象についての知識・調査が足りない、という部分なので、押さえておくべきだと考えます。

さて、森氏は、ゲーム脳タイプの人がロールプレイングゲーム(「森氏の言う」、です。ここはとても重要なので、繰り返します)をプレイしている時には、β波が「増加」している事に注目します。ここまでの論理を踏まえるならば、「ゲームによってはβ波を下げない」、と解釈するのが妥当ですが、森氏は、驚くべき解釈を行います。即ち、

ゲームをしているとき、本人は極度の緊張状態でした。そのためか、β波が増加してβ/α値は二・五ぐらいまで上昇しており、見た目にはよくなっています。

 しかし、これは後で述べるように、精神的ストレス状態であり、自律神経のバランスが崩れた状態になっていると思われます(113ページ参照)。 (P80)

このように、です。

ここまで、順に森氏の論を追ってきたので、この主張がおかしいのは、明白です。森氏は初め、(森氏の脳波計によって測られた)「脳波(β波)」の出方によって痴呆症が判定出来る、と主張し、それをゲームプレイ中の人についても適用した、として、論を進めてきた訳です。しかし、ある種のゲームをやった結果、β波が増加したというデータが得られたら、そこに、アド・ホック(後付け)で恣意的な、「解釈」を施したのです。このような後付けの解釈をする、というのは、「森氏の測る脳波によって心理状態を判定する事は出来ない」、というのを自ら示している、と言えます。

そして森氏は、ダンスゲームをプレイしている時にもβ波が増加している事を示します(図19のDグラフ)。

 しかし、最後のダンスゲーム(D)をしたときのデータをみてください。◎(引用者註:◎はゲームを止めた時を示し、★が、ゲームを始めた時を示す)の時点で一回のダンスが終了しています。グラフをみるとダンスをしているときにはβパーセントが低下していますが、終わった後はβパーセントの増加がみられ、それが一回目よりも二回目、さらに四回目ではβパーセントの増加はさらに顕著で、その持続は長くなる傾向を示しています。ゲーム終了後においてβパーセントの増加によりβ/α値が二・〇まで上昇しています。(P81)

この説明にもある通り、ダンスゲームプレイ中のグラフは、中断を入れながらゲームを数回したデータを図示したものです。そして、ゲームを行っている時にはβ波が下がり、止めた時~再度ゲームを行うまで はβ波が増加する、という事です。ちなみに森氏は、「一回目よりも二回目、さらに四回目では」、と、ダンスゲームをやる度に(やればやるほど)β波が増加した事を仄めかしていますが、グラフを見ると、微増です。どの程度増加すれば実質的に意味があるのか、全く不明で、説明もなされていません。しかもこれは、サンプルの一つの要素(1人の被験者)のデータに過ぎません。

更に、森氏は説明を続けます。森氏は、ダンスゲームによって(ゲーム中断後の)β波が増加したのが、「ゲームの効果というよりも、運動をしたことによる効果」(P81)である、と主張します。この説明も、森氏の方法について疑問を抱かざるを得ない内容です。この結果は、森氏の脳波計によって測られる生体信号のデータが、運動によって容易に変化し得る、という事を示しているのですから。

また、森氏は、ゲームの効果と言うより運動の効果、と主張していますが、これは、おかしな論理です。ダンスゲームというのは、運動(取り敢えず、ある程度大きく身体を動かす事、とでもします)の要素がゲームに含まれている訳です。これはつまり、ゲームがβ波を低下させる、という自身の説への反証例である、とも言えます。※しかし、「ダンスゲームは全ゲームの内の一部である」、という反論を受ける可能性がある。つまり、多くのゲームはダメだが、ダンスゲームは良い効果を与えるかも知れない、という具合に。

・ゲーム脳の人間のふだんの脳波(図20)

ここでは、2枚のグラフが示されています。※横軸:時間(分) 縦軸:α%・β%および、β/αの値

この説の本文は3行なので、全て引用します。驚く内容です。

 図20は、ゲームをしていないときのゲーム脳人間タイプの人のデータを示しています。

 被験者は高校三年生ですが、本人の話では、毎日母親と口論が絶えないと言っていました。彼は表情が非常に乏しく、ほとんど笑い顔がなく、キレるタイプのようです。(P86)

このような、印象を誘導するような記述は、本書に散見されます。ここでは、「本人の話では」という伝聞を元にし、更に、表情についての主観的な、いわゆる「印象」を語り、「キレるタイプのようです。」と、それまでの文章から導くには無理のある推測を行っています。口論などというのも定量的な概念では無く、単なる被験者の報告です。

この節の見出しには、「ふだんの脳波」とある訳ですが、ここで示されているグラフは、上記引用文にもあるように、「ゲームをしていないとき」のもので、しかも、たった5分間のデータです。森氏の脳波計で、人間の生活の各局面においてどのようなデータのパターンを示すか、という所には、一切言及がありません。

・ゲーム脳人間がソフトを買った直後と2週間後の脳波の比較(図21)

図21は、二枚一組のグラフです。Aは、ゲーム脳タイプの人が、ソフト発売直後に「ロールプレイング」ゲームを買い、それをプレイした時のもの。Bは、同じ人が同じゲームを2週間後に再度プレイした時のものです。

A・B両方のグラフで、β波がある程度高い所にあります(「ほかのゲームソフトでは、ゲーム中はβ/α値がゼロになってしまう状態」(P87)とある )。森氏は、グラフAよりグラフB(当該ゲームを2回クリアした時から2週間後)の方がβ波が低下していると言い、「四回クリアしたときには、完全にゲーム脳のレベルまでβ波が低下してしまいました。」(P87)と言います。ところで、AとBのグラフでは、Bの方がβ波が低下しているとされていますが、図を見てみると、数値自体は確かに下がっているように思えますが(度数分布の図は載っていない)、その差にどのような意味があるか、判然としません。

更に森氏は、

 このままですと、αとβがやがて重なってしまうでしょう。さらにそれでもテレビゲームを続けていれば、前頭前野の機能が大きく低下し、人間らしさが失われていき、やがて彼は人間としての社会生活を営むことができなくなってしまうのではないかと案じられます。(P87)

と、まさにとんでもない論理展開を行います。まず、数回ゲームをクリアしたらβ波(と称されるもの)が下がった、という観測がなされたとすれば、それについての解釈は、色々あり得る訳です。たとえば、「慣れ」であるとか(森氏自身、後でそういう説明をしている)。しかし森氏は、様々に可能である解釈の中から、「前頭前野の機能が大きく低下」する、という主張を行います。そして、「人間らしさ」や「人間としての社会生活」等の、心理・社会的現象についても言及しています。しかし、これらについて、妥当性・信頼性の確認された心理測定尺度を用いて定量的に測定したという記述は、全くありません。

ゲームを発売直後にプレイし、数十時間掛けてクリアした→数週間後に再びクリアしたら、(森氏による)β波が下がっていた――という現象を科学的整合的に説明するには、「何が違っているか」、という所を考察する必要があります。つまり、慣れ、体調、やる気、身体の動きの大きさ、等々。これらの条件をコントロールした適切な実験計画を立てて論証していく、というのが、科学的な手続きです。しかるに本書では、そのような論証は一切行われておらず(更に、まともな学術論文も存在しない)、現象の原因が、即「前頭前野の機能低下」と看做されます。これは、全く妥当では無い、と言わざるを得ません。

・ゲーム脳人間がほかのゲームをしているとき(図22)

図22は、ゲーム脳タイプの人が、「立体の木製ブロックパズルの組み立てと十円玉立て(十円玉を机などの平面上に立てる遊び)」(P90)を行っている時のグラフです。グラフのスタイルは、図20や21と同様。

森氏によれば、いずれの作業も、完成した瞬間にβ波が増大した、との事です。図22の説明文には、「それぞれ、完成して作業に集中した瞬間にβ波の活動が上がっています。」(P91)とあります。集中時に上がるなら、完成後に増大するのはおかしな気もしますが(そこに時間差がある、というのを示している)ここではその説明はありません。そして森氏は、被験者について、「なお、本人は自分のことを、よくもの忘れをするタイプだと言っていました。」(P90)と紹介しています。これも、単なる被験者の報告に過ぎません。そもそも、物忘れという概念が、曖昧なものです。

・幼稚園児と小学生がテレビゲームをしているとき(図23)

図23は、A:6歳(テレビゲーム未経験者。テレビゲーム時の測定 ※「ほとんどテレビゲームをおこなっていない」という説明と、「テレビゲームをしたことがありません」という2つの説明がある) B:6歳(週1・2回、一度につき1時間程度のゲームプレイの習慣あり。テレビゲーム時の測定) C:11歳(ゲーム習慣については後で説明。10円玉立て時の測定)  のグラフです(スタイルは前節と同様。各2枚のグラフ)。

Aの被験者は、ゲームを行っている最中は、β/αの値は、若干下がっています。これは、β波が少し下がりつつ、α波が微増しているためです。β波の低下は、それほど顕著ではありません。

B例は、図を見る限りは、それほど変化しているようには見えません。森氏は、ゲームをプレイし始めると、α波とβ波が混在してくる、と言います。また、β/αの値のグラフを見ると、大体1付近を推移していますが、α波%のグラフが高い所にあるので、比が下がるのは当然ではないかと思います。※A例では、α波%は、20前後を推移。3分の2程度は20を下回っているように見える。B例は、ほぼ20以上。

C例(11歳。週3回、1回につき2時間程度プレイの習慣)については、「すでに半ゲーム脳人間の状態を示しており」(P92)と言い、「積み木合わせゲーム」を行うとβ波が低下し、(実験開始から)6分経過後に10円玉並べ(上記のものと同様か不明)をやらせたらβ波が少し増大した、と言います。そして、「これらのデータが示すように、幼稚園児、小学校低学年児でさえ、β波の低下がすでに認められます。なお幼稚園児では、α波よりもβ波が低くなる例は、一例も認められません。」(P92)と結びます。

C例を見ても、そもそもα波のレベルがある程度高いために、比の値は小さくなっていますが、A例と較べても、β%の値は、それほど大きく異なっている、とは見えません。その数%の違いをもってタイプ分けを行う根拠は、相変わらず示されません。

さて、やはり森氏は、この節でも、印象を元にした説明を行っています。C図についての説明文を、引用してみましょう。

まだ小学生なのに、すでに半ゲーム脳人間タイプです。このまま大きくなったら、キレる人になってしまうかも知れません。けれど6分のときに、ゲームをやめて10円玉立てをしたら、少しβ波が上がりました。(P95)

またしても、森氏の、かなり飛躍した推測です。根拠は、この図のみです。ちなみに、少しβ波が上がった、とありますが、それと同時にα波が下がっているので、β/α波の値が、ほんの少し上がっている訳です。

次節からは、ゲーム脳の神経科学的「メカニズム」について、推測を交えながら、説明されていきます。

次回へ続く。

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コメント

ちょこちょtこ修正しました。

ちなみに、ここまでで、ほぼ半分。先はまだまだありますな…。

次の節からは、なかなか難しくなります。

投稿: TAKESAN | 2008年3月 9日 (日) 13:37

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