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2008年2月26日 (火)

『ゲーム脳の恐怖』を読む(1)

先日お知らせしましたが、森昭雄氏の著作、『ゲーム脳の恐怖』の内容を検討するシリーズを、始めます。不定期の連載になると思います。

今更? と思われる方もおられるでしょうけれど、ゲーム脳説は、現在ある程度流布されており、森氏の講演会や、ゲーム脳をテーマにしたイベント等も、たびたび行われています。そういう状況を鑑みれば、森氏が著作で何を主張したか、というのを検討するのは、決して意味の無い作業では無いと考えます。

カテゴリーとして、「『ゲーム脳の恐怖』を読む」を追加します。

引用文は、特に断らない限りは、森昭雄 『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版)からのものです。

強調部分は、引用書の見出しを示します。

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前書き

まず、ファミコンの誕生、いくつかの有名ソフトの紹介および、ゲームハードの出現の大まかな歴史を、紹介しています。その後に、ゲームの悪影響についての指摘がある事を紹介し、木村文香氏の論考を引用し、テレビゲームの真似をして傷害事件が起こった例を挙げています。

次に、森氏が、幕張メッセで行われたイベントに行き、そこで見たコスプレをした少女にショックを受けたエピソードが、紹介されています。

 昨年、幕張メッセで開催されたテレビゲームショーに行くチャンスがあり、見学してきました。その会場の異様な雰囲気に私は驚き、ショックを受けてしまいました。というのも、中学生風の女の子が、左右に立派な白い羽をつけたエンジェルの格好をして、真面目な顔で歩いているのです。しかし、会場をよく見回してみると、テレビゲームのなかに出てくるキャラクターそっくりの衣装に身を包み、無表情で歩いている小中高生が、彼女のほかにも百人前後いることに気がつき、再度ショックを受けました。(P4・5)

この引用文から、森氏が、恐らくコスプレという文化に無知である事が、窺えます。更に、印象として、「異様な雰囲気」、「無表情で歩いている」、等の表現を用いています。この後森氏は、その印象を元に、将来の日本についての危機感を表明しています。

 このとき、私はこの子たちの将来、そして日本の未来はどうなってしまうのだろうかと心配になってしまいました。本当に自分が別世界に来たみたいで、自分の意識を一瞬疑ってしまいました。(P5)

この文章から、森氏が、自身の知らない文化について、その内容を調べようともせず、「印象」のみをもって評価し、その印象を不当に一般化しているのが、見て取れます。

さて、森氏はこの後、自身の研究によって脳波が容易に記録出来るようになり、その方法によって、テレビゲームや携帯ゲーム中の前頭前野の活動を調べた結果を纏めた、と主張します。そして、その結果から、

驚くことに、テレビゲームのなかには前頭前野の脳活動をあきらかに劇的に低下させるものが多いことがわかったのです。このままこれを放置していると、テレビゲームに熱中しすぎる子どもたちは、キレやすく、注意散漫で、創造性を養えないまま大人になってしまうと思われます。さらに若年性痴呆症状態を加速する可能性が高くなるのではないかと危惧しています。(P6)

こう結論しています。ここで注目すべきなのは、キレやすい、注意散漫、創造性を養えない、という心理学的な悪影響および、「若年性痴呆症状態を加速」するという、医学的悪影響が、明確に主張されている所です。

この後には、IT革命による、「子どもたちの限りない潜在脳(ママ)力を削ぎとっている可能性」(P6)への懸念を表明し、五感を駆使し、人と触れ合う事の大切さを主張します。そして、飼育していたカブトムシが死んでしまい、親に、「電池を交換すればいい」と言う子どもの例(森氏の友人の話として紹介)が挙げられ、「この話に私は非常に強い衝撃を受けましたが、子どもの脳に異変が生じていることは現実なのです」(P7)としています。当然、生き物が死んだのを見て電池を交換すれば良いと発言する事は、脳の状態について推測する材料には、特にならない訳ですが、森氏はそこも、強引に結び付けています。

次回へ続く

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コメント

TAKESANさん

>キレやすく、注意散漫で、創造性を養えないまま大人になってしまうと思われます。

私には、団塊の世代を語っているように見えます。

ところで、森氏は若年性認知症をよく理解していないんじゃないかと思えることがあります。
「若年」といっても定義は65歳以下というだけで、好発年齢は40~50代なんですが。
なんとなく「若年」というだけで10~20代が罹る病気とでも思っているんじゃないでしょうか?(まあ、10~20代が全く罹らないわけではないけど)

投稿: | 2008年2月26日 (火) 08:27

すみません。
また名前入れ忘れました・・・

投稿: Noe | 2008年2月26日 (火) 08:48

、「子どもたちの限りない潜在脳(ママ)力を削ぎとっている可能性」

うは。用語が、まんま新聞屋さんやインチキ健康食品屋さんだ(^^;。

私の敵、酵素栄養学の人達の本を思い出してしまいました。

投稿: JosephYoiko | 2008年2月26日 (火) 09:48

>Noeさん

実は今の比較的高齢の人が…と言われる事も、よくありますよね。

森氏、
▼▼▼引用▼▼▼
さらに若年性痴呆症状態を加速する可能性が高くなるのではないか
▲▲引用終了▲▲
と書いているのですよね。発症のリスクを高めるのではないか、でも無く。
語の用い方が曖昧なので、意味がはっきり取れないですね。

------

JosephYoikoさん、今日は。

「脳を壊す」という所を強調したかったのかも知れませんね。何となくキャッチーですし。
『脳力トレーナー』ってゲームもありますねえ。

投稿: TAKESAN | 2008年2月26日 (火) 12:12

こんばんは。

息の長い連載になりそうですね。楽しみです。
「ゲーム脳批判」そのものに関しては、ゲイムマンさんの記事とか非常にまとまっていて良いのですが、今回TAKESANさんが始められた様な形で詳細に批判を加えているものは、寡聞にして知りません。
ですので、とても意義のある試みだと思います。

殆どTAKESANさんの記述と重複してしまいますが、ちょっと一点だけ追加させてください。
森氏は「無表情で歩いている」のが「異様」であるかのように書いていますが、コスプレをしていても中身は一般人なのですから、ただ歩いているだけならむしろ無表情なのが当たり前です。おそらく森氏は、コスプレという外見だけを見て、キャンギャルやコンパニオンのように常に満面の笑みでいるのが当然という「個人的な印象」だけで書いていると考えます。
個人的な思い込みを一般化するのは止めて欲しいですね。

投稿: PseuDoctor | 2008年2月27日 (水) 00:11

PseuDoctorさん、今晩は。

ありがとうございます。
おかしな点などありましたら、遠慮無くご批判下さい。

 >無表情

そうなんですよね。たとえば、対面で会話した、というシチュエーションな訳でも無く、単に歩いている所を観察したとしか読めないのですよね。で、そういう状況なら、無表情である事は、当たり前なのですよね。撮影中等なら、また別の印象を持つはずなのに。

森氏の発言は、思い込みの敷衍のオンパレードなので、色々と、紹介していきたいと考えています。

投稿: TAKESAN | 2008年2月27日 (水) 00:52

こんばんは~。
「コスプレをしている人が無表情だった」という部分ですは、私が意地悪なのか、もっとひどいことを考えてしまいました。
森氏のようなどう考えても場違いなオッサンがジロジロと観察してきたら気持ち悪くて顔がこわばり、結果、無表情になってしまうのでは?
と…(笑)

しかし、改めて考えてみると、ゲームショウに行った、ということは、色々なジャンルのゲームなどに触れたり、説明を聞いたりする機会があった、ということですよね。で、あるにも関わらず、「ゲームはテンポが速くて思考の入る暇が無い」だとか、あまりに稚拙なジャンルの取り違えだとかを大量にしているのは…。
本当、何をしに言ったんでしょう?

投稿: たこやき | 2008年2月29日 (金) 00:54

たこやきさん、今晩は。

前半についは、ノウコメンツで…。いやまあ、個人的には、色々思う所はありますです、はい。初めから好奇の目で見てたのは、間違い無いだろうなあ。

ホント、何しに行ったんでしょうね。ゲームショウに行ったのに、ゲームの事は調べなかったのか、って感じで。

ゲームの害悪を論じてるのにゲームを知らないとか、フィールドワーク的な研究をしないとか、なめてますよね、実際。

投稿: TAKESAN | 2008年2月29日 (金) 01:22

私はゲームショウとか行ったことないので、そこでどのようなゲームが紹介されているか知りませんが、イメージとしてはWiiのような体を動かす系とか、CG全開の画面綺麗系なのでしょうか?

だとすると、あまりテンポの遅いゲームは、仮に出展されていてもあまり目立たないかも。

これは個人的感想なのですが、ゲーム自体のパフォーマンスは年々上がっているとは思いますが、ゲームの面白さは年々減少してきているように感じてしまいます(最新ゲームには疎くなっているので、偏見も入っていますが)。
自分が年をとっていくからなのか、感覚が飽和してきてしまうからなのか、それとも実際に「おもしろさ」が薄れていっているのか・・・

ちなみに私が一番感動したゲームは「無限の心臓(テープ版)」です。一番面白かったのは「ザナドゥ」です(逆かな?)。

投稿: Noe | 2008年2月29日 (金) 09:03


訂正
「無限」→「夢幻」

投稿: Noe | 2008年2月29日 (金) 11:31

私も行った事は無く、報道や雑誌記事等で目にするくらいですが、こんな感じです⇒http://tgs.cesa.or.jp/

▼▼▼引用▼▼▼
これは個人的感想なのですが、ゲーム自体のパフォーマンスは年々上がっているとは思いますが、ゲームの面白さは年々減少してきているように感じてしまいます(最新ゲームには疎くなっているので、偏見も入っていますが)。
▲▲引用終了▲▲
お、これは。私の拘りポイントなので、ちょっと煩くなるかもなので(笑) ご容赦を。Noeさんが仰る事ともかぶりますが。

まず、「パフォーマンス」というのは、ここではグラフィック・音声の向上、ですよね。これは比較的客観的な事なので、事実として、その通りであると思います。で、それもある程度行き着いた感もありますね。今が過渡期かも知れません。

で、「面白さ」がどう変化したか。これは難しいですねえ。
今は、以前とはソフトが発売される頻度も違いますし、いわゆる「ゲーム性」、つまり、ゲームにおける「骨格」の部分は、当然、それほど多様なパターンがある訳では無いでしょうから、「出尽くす」所があると思います。現在は、新しいゲーム性を何とか生み出したり、既存の骨格に、向上したグラフィックや音声の肉付けをして新しいものとして楽しむ、という状況なのだと感じます。

従って、総体としてどう変化したか、というのは、とても難しいですね。前からゲームをやっていた人の場合は、「飽きる」事もありますしね。
ファミコンが爆発的にヒットした頃の「クソゲー粗製濫造」時代を知っている者としては、総体的に見ると、やはり向上しているんじゃないかなあ、という主観があります。骨格と肉付けは密接不可分なので、たとえばチュートリアルにあたる部分を考えると、現在のゲームの親切さとかは、物凄いものがありますね。

いずれにしても、ゲームで「面白い」と評価されるものは、結局平均から大きく上側にはずれた所にあるゲームなので、全体として「今がどうであるか。前からどう変化したか」、という観点から見るのは、なかなか困難であるかな、と。面白いという概念自体が、物凄く複合的なものですしね。
ゲームが社会的に認知され、文化として成熟してきたので、私達の「面白く感じる」閾値が上がった、というのもあるかも。

長っ…。

投稿: TAKESAN | 2008年2月29日 (金) 13:16

ゲームショウは何度か行ったことがあります。
もし、モーターショーとか、そういうイベントに行ったことがあるのならば、わかると思うのですが、各メーカーがそれぞれにブースを設置しており、そこで新作ゲームのデモ展示をしたり、新作ゲームの体験版を遊べるコーナー、はたまた芸能人などを呼んで、新作ゲームの内容を発表するトークショーのようなものが行われています。
このイベントに出展する、というのは、新作のPRが一番ですから、力を入れている作品、派手な作品などが目立つ部分に来ることが多い、というのは確かです。また、有名メーカーのほうがブースの大きさだとかからしても目立つ、というのも確かです。

ただ、『ゲーム脳の恐怖』が発表された時点を考えると、Noeさんの仰るような「体感型ゲーム」は決して主流ではなかったと思います。
当時も、『ビートマニア』であると、『太鼓の達人』などのような「音ゲー」を中心として、ゲームファンの多いジャンルになりつつあったのは確かですが、当時はまだWiiは影も形も無かった時代です。むしろ、ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーなどのRPGなどが人気の中心だったと思います。RPGの場合、体験版、というよりは、CGのデモを流すだけ、ということも多く、どういうゲームかわかりづらいかも知れないですが、森氏のような人が行くなら案内人が居ると思うので、全く説明なし、ということは考えづらいのですが…。
『ゲーム脳の恐怖』発行が02年7月なので、恐らく「最近のゲームショウ」は、01年秋でしょう。
このときの出展情報だと、エニックスは『いただきストリート3』『グランディア3』『ドラゴンクエスト8』、スクウェアは『キングダムハーツ』、カプコン『鬼武者2』、コナミ『メタルギアソリッド2』『ときめきメモリアル3』、ナムコ『ゼノサーガ』…などがメインになるでしょうかね。むしろ、まもなく発売、となっていたマイクロソフトの新ハード・X-boxが最大の注目だったかも知れません。

http://tgs.cesa.or.jp/2001autumn/index.html

投稿: たこやき | 2008年2月29日 (金) 18:55

たこやきさん、今晩は。

ご説明、ありがとうございます。

振り返ってみると、なかなかのラインナップですねえ。FFも10が発売される辺りですね。

森氏の場合、はなから、ゲームについての具体的情報はちゃんと聴く気が無かったとか、そんな感じなのかも知れませんね。明らかに、先入観があったでしょうから。

投稿: TAKESAN | 2008年2月29日 (金) 19:20

TB下さった後藤さんのエントリーもどうぞ⇒http://kgotoworks.cocolog-nifty.com/memo/2008/02/post_d2ce.html

投稿: TAKESAN | 2008年3月 1日 (土) 00:18

このコラム、完成したらどっかで出版してほしいですね。
協力したいですけど、私もあんまり出版社とつながりないもんで……。

投稿: ゲイムマン(府元晶) | 2008年3月 1日 (土) 16:19

ゲイムマンさん、今日は。

過分な評価、痛み入ります。

でも、紙に印刷されるような性質のコンテンツでも無いような(笑)

このシリーズは、ある程度「小難しい」文章を読める人向けなのですよね。
多分、(私もそうだし)ゲイムマンさんも念頭に置いていらっしゃるターゲットは、たとえば若年のお子さんを持っていて、それほど科学の方法に詳しく無い方とか、そういう所ですよね。で、そういう層への説明というのは、物凄く難しい訳ですよね。実は初めは、そういう文章を書こうと思っていたのですが、それはあまりに困難で、なかなか進められないんですね。

今回のは、一応、それとは別の層の方向け(ニセ科学に関心を持っているがゲーム脳説についてはそれほど詳しく無い人、とか)に書いたものなのですよね。ある意味で、簡単に書けるものなので…。

どなたか、幅広い層向けのゲーム脳批判を書いてくれないものか。川島氏がやってくれれば、とか夢想したり(笑)

投稿: TAKESAN | 2008年3月 1日 (土) 16:56

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