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2007年9月20日 (木)

SEARCH

昨日採り上げた本から、興味深い所を要約して、ご紹介します。引用文献は、下部に示します。

著者は、検証(SEARCH)公式と称するものを、それを利用する事によって、様々な不思議現象を査定するガイドとして、呈示しています。

 最初に簡単に描いておきたいと考えているのは、あなたが出くわすどんなにトンデモない主張についても、それをすべて一歩一歩評価するための手助けとなる手続きである。これは公式になっており、すでに論じた原則をもとに、合理的な結論が導き出せるようにガイドしてくれる。公式は(「十戒」のように)石に刻まれた絶対的なものではない。これは、あらゆる通常の(あるいは、異常な)主張を理解しようとするなら、私たちの誰もが用いなければならない原則の一運用例に過ぎない。(P232)

    1. 主張の言明(State)。
    2. 主張を支持する証拠(Evidence)の検証。
    3. 代替(Alternative)仮説の考察。
    4. 査定(Rate)――妥当かどうかの基準(Criteria)に従い、各仮説(Hypothesis)を評価。(P232-233)

では、順に見ていきましょう。

○ステップ1:主張の言明(State)

主張が曖昧で、不明瞭であってはならない。たとえば、”「幽霊は現実のものである」は、考察の対象にふさわしい文章ではない。なぜなら、それは曖昧で的確ではないからである。”(P233)。主張の内容を明確にし、語の意味を限定する。

○ステップ2:主張を支持する証拠(Evidence)の検証

主張を受け容れる理由を考察する。主張を支持する「証拠」があるのか。理由について正確な評価を下すための必要な事は、

  1. 経験的証拠の正確な性質と限界を決定すること――証拠が何であるか、という事以外に、「その評価を疑う合理的な理由があるかどうかを評価しなければならない。」(P234) たとえば、知覚や記憶の歪み(錯覚や幻覚。偽りの記憶等)、また、実験におけるバイアス(実験者バイアス等)や曖昧なデータ(極端にサイズが小かったり母集団を代表していない不適切なサンプリング、等)が無いか。
  2. 無効とみなされた方がよい理由がないかどうか判断すること――”希望的観測、信仰、根拠のない直観、主観的確信”(P234)等が含まれていないか。それらは、主張を支える合理的な根拠とはならない。
  3. 議論されている仮説が実際に証拠を説明しているかどうか決定すること――”よい仮説とは、それが説明しているはずの証拠にとって適切なものでなければならない”(P234) ちょっと解りにくいですね。

○ステップ3:代替(Alternative)仮説の考察

ある現象を説明する仮説について議論がなされている場合、”事実を説明する可能性を持った代替の仮説と、それを認める理由についても、ハカリにかけなければならない。”(P234) それら代替の仮説に対しても、ステップ2を適用する必要がある。

本書で出されている例(要約 P234-235参照)

仮説:「サンタクロースのそりを引いて空を飛ぶ赤鼻のトナカイさんは、実在し、北極に住んでいる」 

証拠:

  1. 多くの人(主に子ども)が信じている。
  2. クリスマスの間に、そのトナカイの複製が、至る所に現れる。
  3. トナカイは、長い間を経て数多く存在したのだから、突然変異等で、空を飛ぶトナカイが生まれたというのは、ありそうな事だ。

代替仮説:「赤鼻のトナカイさんは、クリスマスソングの中で作り出された想像上の動物である」

証拠:

  • トナカイさん実在仮説は、既存の生物学的理論と矛盾し、新種に関する前提・仮定を立てる必要がある。しかるに、ここに示した代替仮説ならば、その様な、既存の理論との不整合も起こらない。

○ステップ4:査定(Rate)

競合する仮説を検討し、妥当な仮説を判断する。

妥当性の基準

不思議現象の場合、証拠がないことが多いので、その証拠を正しく理解できる他の要因について考え、証拠がまったくない場合でも、仮説を測る手助けにする必要がある。7章で論じたように、この有力な要因が妥当性の基準である。(P236)

  • テスト可能性――テスト不能な仮説は価値が無い。本書の例:「頭の中に発見不可能なグレムリンがいて、それが時々、頭痛を引き起こしている」という主張。この仮説は意味をなさない。何故ならば、グレムリンは発見不可能、という定義がなされており、テストのしようが無いからである。この仮説は、何の情報ももたらさない。
  • 豊饒性――仮説が、新しい現象を説明するか、検証可能な驚くべき予測をもたらしているか。たとえば、アインシュタインの理論から予測された現象が、エディントンの観測によって検証された例。
  • 範囲――仮説がどれくらい多くの現象を説明出来るか。たとえば、ニュートンの理論とアインシュタインの理論との関係。”他の条件が同じであれば、最大の範囲を持つ仮説が、すわち、最も多くの異なる現象を予測し説明するものが、最もよい仮説である”(P166)
  • 保守性――よく知られた、しっかりした根拠に基づく信念と、矛盾していないか。”経験的証拠――信頼が置ける観察と科学的検証から導かれた結果や、自然の法則や、すでに確立されている理論――と矛盾していないか”(P237)。ニセ科学の議論でも、よく出てくる話ですね。つまり、数多くの人が長い時間をかけて積み上げてきた科学の体系と矛盾するかどうか、という事です。
    • 同様に、もし誰かが極めて確固とした理論と矛盾する仮説を出してきた場合、その仮説が正しく、理論が間違っていることを示す、よい証拠が出されるまで、その仮説は信憑性がないとみなさなければならない。超常的主張というのは、定義からしてありそうもないことである。したがって、そうではないというよい証拠が提出されて初めて、この判定を覆すことができるのである。(P238)

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本書では、これらの見方を用い、各種の不思議現象(ホメオパシー、ダウジング、死者との交信、臨死体験)について、検討されています。これに倣い、SEARCHの公式を使って、水伝を検討してみましょう。

○主張の言明(State)

水伝の仮説は、「綺麗な言葉を水にかけたり見せたりした後に凍らせたら、美しい氷が出来た。言葉には、水を綺麗にする何らかの効果があるだろう」、といった所でしょうか。ここでは、「綺麗な言葉」(具体的には「ありがとう」等だが)や「美しい氷(結晶)」という定性的評価しかなされておらず、それがどの様な意味を指すのかが、明らかでありません。

○主張を支持する証拠(Evidence)の検証

具体的実験条件が不明、論文も無し、評価の方法も恣意的。全く定量的な定義も実験もなされておらず、極めて証拠に乏しい、と言えるでしょう。

○代替(Alternative)仮説の考察

これは、様々なものが考えられるでしょう。たとえば、美しいと実験者が感じた物を、選択的に採り上げた、等。と言うより、ここを考慮する必要も無い訳ですが。

○査定(Rate)――妥当かどうかの基準(Criteria)に従い、各仮説(Hypothesis)を評価

妥当性の基準

  • テスト可能性――不能。後の保守性の問題と関わります。部分的な主張を取り出して、心理学的な実験を立てる事は、可能かも知れませんが。たとえば、文字を見せたり聞かせたりした氷の美醜を評価させ(二重盲検法によって)、それを統計解析する、等。水伝の反証実験を行うべきである、という意見は、これを念頭に置いているのでしょう。
  • 豊饒性――思いつきません。水伝によって、何が予測され、どんな現象を説明するのか。ダムに「ありがとう」を聞かせれば水が綺麗になる、というのは、予測と言えるでしょうか。もちろんそんなものは、後の保守性の観点から見ても、ナンセンスです。
  • 範囲――これも、豊饒性と同じですね。言葉が水を綺麗にする、という仮説は、何事をも説明しようが無い。
  • 保守性――既存のあらゆる理論に矛盾する。ある言葉を別の言葉とどう見分け、聞き分けるか。刺激を受容し、信号に変換し、それを情報処理(音や光のパターンを分節し、他の語と区別し、意味を認知)する過程を、水がどうやって行うのか。自然科学以前に、言語学の論理に完全に矛盾する。即ち、文脈依存性・恣意性・離散的性質とその認知(参照:思索の海 - 水に答えを聞く前に)。

こんな感じです。

色々な仮説を、ここで挙げた観点から総合的に検討し、妥当なものかどうかを判断するのは、大変便利だと思います。

参考・引用文献:

クリティカルシンキング 不思議現象篇 Book クリティカルシンキング 不思議現象篇

著者:T・シック・ジュニア,L・ヴォーン,Lewis Vaughn
販売元:北大路書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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コメント

何故か、コメント閉じてしまってた…。
もちろん、閉じてた事に、何の意味も無いです。

んで、水伝関連で、こんなものが⇒http://izumiworld.exblog.jp/6487535/

チョコレートは、初めて聞いたなあ。
論理的には何でもあり得るので、別に驚く事でもありませんけれど。

もうちょっと、批判的に検討された方がよろしいかと。

投稿: TAKESAN | 2007年9月20日 (木) 18:54

メールしてみました。
議員さんだし、出来たら批判に動いていただければいいんですけどね。

投稿: A-WING | 2007年9月20日 (木) 19:51

思うのが、やはり善意なのだなあ、という事ですね。

水伝そのものをご存知なのかは解りませんが、色々と考えて頂きたいですね。

投稿: TAKESAN | 2007年9月20日 (木) 20:01

と、百匹目の猿の話も書いてありますね…。

投稿: TAKESAN | 2007年9月20日 (木) 20:08

 >水伝そのものをご存知なのかは解りませんが

江本氏の名前も出てきます⇒http://izumiworld.exblog.jp/3796634/

投稿: TAKESAN | 2007年9月20日 (木) 20:12

ありゃ、山下いづみさんのエントリについては、ぼくも言及しちゃいました。かぶったな。

アメリカ・インディアンの世界観は、断じて水伝みたいなものと一緒にされるべきものではない、と思うんですけどねぇ。このことはもう少し自分のなかで整理が付いたら書くかもです。

投稿: pooh | 2007年9月21日 (金) 00:07

poohさん、今晩は。

あ、ホントですね。テクノラティで見つけたので、リンク貼りました。

素朴、ですよね。子どもとそういう実験風な事をしているというのが、非常にまずいです。

投稿: TAKESAN | 2007年9月21日 (金) 00:11

エントリで紹介されている本は、より有効(切れ味がよく)で強力な(波及範囲がひろい)仮説を設定するためのものですね。こうやって紹介していただけると助かります。生物学・医学方面では仮説はふつう単純ですむのですが、社会・心理学方面では仮説もこうやって練る必要がある、というのでしょう。ニセ科学にあてはめる、というのは有効な限界をもとめる、という事とは逆方向に使う事のようですので、たぶんネタであまり役立たない可能性もあるかと思います。

投稿: ちがやまる | 2007年9月21日 (金) 07:58

ちがやまるさん、今日は。

とても面白い本で、色々な不思議現象について具体的に検討してあるので、勉強にもなります。

誰かが設定した新奇(場合によっては荒唐無稽にも思える)な仮説の妥当性を検討すると共に、自身が新たに仮説を設定する際のポイントとしても、役に立つのではないかと思っています。

投稿: TAKESAN | 2007年9月21日 (金) 11:57

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