誰それの合気
佐川幸義師範の合気はどうだったか、というのを考えるのは難しいですね。まず、動画が残っていない。そして、そもそも受けた人しか、「感触」が解らない。だから、体験者の証言から、推測していくしか無いのですよね。
現象としては、手首を掴ませた老人が身体をちょっと揺すったら、掴んでいる人が吹っ飛ぶ、というものですね。前にも書いた通り、その様な現象が起こるには、色々な可能性がある訳です。
たとえ、「自分は本気で掴んでいた」、と主張したとしても、それは、そう「思って」いただけで、実際に、力学的に合理的な掴み方が出来ていたか、というのは、相対的に独立の話です。
だから、同じ様に見えても、実は違うのだ、という意見が出て、議論になり、しまいには、水掛け論になってしまう訳です。
一つの技法のメカニズムについて論じても、他の技法も同じとは限らない、というのもあります。手首を掴ませて行う技は、バイオメカニクス的説明とか、生理学的な反応を使っているのだろうか、等の仮説を立てられるけれども、柔らかいセーターの襟元を持たせ、そこから相手を吹っ飛ばす、というのは、どうしても、解らない。
じゃあ、どう考えるか。いくつかの可能性がありますね。もちろん、本気で掴んで、ちゃんと掴めている。それを軽く投げ飛ばす、というのを前提にするのですね。人文・社会科学的メカニズムの割合が大きい現象は、除外します。で、そういう技術が出来ているか、そして、何故出来るのか、というのを検証するのは難しい。何故ならば、出来る人が、いないから。
出来る、と言う人がいれば、その人に対して、誰かに本気で掴ませて、技が出来るかを確かめなければなりません。当然、同門の人等は、除外します。まあ、一番良いのは、「金を掛ける」事ですね。押さえつけられたら受けの勝ちで、手が上がったら(ここでは合気上げ)取りの勝ち。で、勝った方に5,000円進呈する、とかですね。受けには、古流や合気道を見下していて、かつ格闘技を経験している人がいいでしょう。力士とかプロレスラーがベターですね。強い人達に、本気を出させる訳です。20~30人も集めれば、色々解るのではないでしょうか。※この案は、高岡英夫氏が、本に書かれたものをヒントにしています。ソース失念。内容は、剣術に対する技を鍛えたいなら、金を払って、本物の剣術家に切りかからせれば良い、といったもの。ここで金を払う、というのは、剣術家側にもリスクがあるから、という理由。
そういう実験を重ねて、研究していくべきでしょうね。もしかすると、佐川師範が演じて見せたと伝えられる技法が、お手盛りを排した条件で実現し得る、というのは、永久に示されないかも知れませんね。真面目な話。もし、そういう技法があり得る、と言うのなら、自分がやるか、出来る人を連れてきて、厳しい実験条件の中で、技をやって貰わなければなりません。「いや、出来るんだ」、と言ったって、「じゃあ、見せて下さいな」、と返されるのが、落ちです。
受けと取りは、「手首を掴む/掴ませる」という協力関係を保ちつつ、「上げられまいとする/上げようとする」、という敵対的な関係でもあるのですね。そういう意味で、かなり特殊な条件です。そういう所も考えないといけません。
言及しない方がいいかも知れませんが、生体磁気云々について(多分、ほとんどの人は、何の事か、意味が解らないと思いますが…)。仮説を出すのは結構だと思いますけれど、科学的にこうなっている、と主張するなら、立証の責任は、言い出した側にあります。論文なりを出さないと、誰も相手にしませんよ。いや、実証研究をした、と言っているんでしたね。結構物凄い主張をしているのだから、相当しっかりした証拠を出さなきゃね。
あ、ちなみに。私は、別の所にも書きましたが、高岡氏の説の、「意識操作」には、全く賛同していません。何らかの心理学的な関係によって、離れた人間が吹っ飛ぶ(様に見える現象が起こる)、と言うならばともかく、他人の意識を直接操作出来る、というのは、飛躍が過ぎます。
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透明な力―不世出の武術家 佐川幸義 著者:木村 達雄 |
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