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2007年8月23日 (木)

ゲーム脳は何故ニセ科学か

社会学玄論 : 疑似科学批判の基準のコメント欄で、きくちさんが、ニセ科学のパターンを、4つ挙げておられます。(Commented by きくち at 2007-08-22 23:11)

基準が多様になってしまうのは必然的で、たとえば擬似科学には(1)反証不可能でポパー的に見て科学ではないもの(2)反証可能なだけではなく、すでに反証されてしまっているもの(3)反証可能で直接には反証されていないが、他の科学知識と整合しないので反証する必要のないもの(4)反証可能だが実証も反証もされていないにも関わらず実証されたものであるかのように詐称しているもの、などさまざまなパターンがありうるからです。

さて、この例に照らすと、ゲーム脳は、どれに当てはまるでしょうか。

まず、「(1)反証不可能でポパー的に見て科学ではないもの」です。森氏の主張は、ゲームを長時間すると、前頭葉の機能が低下し、認知症と同じ様な状態になる、というものですね。その仮説に矛盾する命題は、簡単に導かれるので、反証不能であるとは言えないでしょう。長時間ゲームをやって、脳機能が低下しない事が観察出来れば、反証されます(論理を単純化すると)。

次に、「(2)反証可能なだけではなく、すでに反証されてしまっているもの」 どうでしょう。これには当てはまるでしょうか。ゲーム脳仮説そのものの検証は、長時間ゲームをやらせ、その際の脳活動のイメージングのデータを採り、認知機能のテストを行う事によって、行えると考えられますが、そういう研究は、恐らく無いと思います。松田剛氏の研究は、ゲーム中・ゲーム後の脳活動のイメージング研究ですし、その他の社会心理学的研究等も、ゲーム脳説の論証では無いので、「反証された」とは言い切れないのだろうな、と思います。間接的な反証の材料にはなるかな、とも考えますけれど。もちろん、森氏がまともな論文を出していないので、それをわざわざ検証する必要など、無い訳ですが。

「(3)反証可能で直接には反証されていないが、他の科学知識と整合しないので反証する必要のないもの」、はどうでしょう。ごく慎重に考えると、ゲームを長時間して脳機能が低下する、というのは、全く他の知識と矛盾する、とは言い切れないのかな、とは思います。ただ、現在の神経科学・心理学等の知見から、長時間の光刺激やらの悪影響を整合的に説明する仮説が、構築出来るのだろうか、というのは、疑問です。もちろん、乳幼児期に、ゲームばかりやらせていると、他の刺激が抑制され、双方向的なコミュニケーション能力が育たないため、発達に悪影響を及ぼす、という主張もある訳ですが、それが、森氏の言う「ゲーム脳」説と同じものなのか、という疑問も出てきます。そもそも森氏は、まともに概念を定義してすらいないので、ここら辺は、ややこしい所です。

「(4)反証可能だが実証も反証もされていないにも関わらず実証されたものであるかのように詐称しているもの」 これが、ゲーム脳をニセ科学と断言して良い理由の一つですね。上にも書いた様に、「反証されている/いない」は、どう判断すればいいか、ちょっと悩ましい所ですが、「実証されていない」というのは、はっきり言えます。それは、・ゲーム脳説に関するまともな論文が無い事 ・『ゲーム脳の恐怖』の内容が、論理的な矛盾、データの恣意的解釈、経験による印象の過度の一般化に満ちている事(ゲーム文化そのものに対するまともな考察も、皆無) ・森氏が、各所で、ゲーム脳説が実証されたものであるかの如く(講演会や、マスメディアのインタビュー等で)触れ回っている事――等から、導けます。

血液型性格判断は(2)、水伝は、(1)もしくは(3)ですね。マイナスイオンは(4)でしょうか。ゲーム脳は、最も慎重に考えると、(4)になりそうです。そもそも定義がはっきりしない、というのも、押さえておくべきですね。

ニセ科学と一口に言っても、色々なものがあるのですよね。もちろん、現在(4)の理由によってニセ科学と判断されているものであっても、今後、科学的知識として認められるという事は、起こり得ます。現在実証されていないにも関わらず、それがなされたかの様に主張され、流布されたものが、ニセ科学なので。

という訳で、ニセ科学と科学の間に、明確な線引きを行う事は出来ない。それは、社会状況とも関わってくる問題である、というのは、よく認識しておくべきだと思います。

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コメント

マイナスイオンやゲーム脳は、

 そもそも概念の定義がはっきりせず、検証及び反証を
 正確に行える仮説構築がなされていない

という感じかな。だから当然、「実証された」とか「科学的に解明された」と言ってしまえば、それは即、ニセ科学と判断される、という。

投稿: TAKESAN | 2007年8月23日 (木) 01:12

マイナスイオンであれゲーム脳であれ、反証可能な説の形にすることはできるはずですよね。
たとえば「コロナ放電で発生する大気イオンに暴露すると、なんちゃらが有意になんちゃらする」みたいな形にすることはできる。
できるのにしていないところが問題なわけです。もちろん、マイナスイオンという言葉を使っているうちはだめなんだけど。

投稿: きくち | 2007年8月23日 (木) 01:58

きくちさん、お早うございます。

そうなんですよね。で、提唱者が定義をはっきりさせていないので、そもそも実証されたなんて、言えない。

ゲーム脳の場合も、「ゲーム”脳”」なんて名付けるのが妥当か、という面がありますね。ゲームプレイによって特異的に引き起こされる現象で、しかも明確に良くない影響が見出されなければ、そんな語を学術概念として決めるのは、著しく妥当性を欠く訳で。ゲームをやっている時に、脳がそれ程賦活しなくても、それを即悪影響だと結論するというのは、論理的にもおかしいんですけどね…。

投稿: TAKESAN | 2007年8月23日 (木) 08:51

論宅さんの言葉遣いについての、野暮な分析(皆気付いているけど、敢えて触れていない。エディさんが触れたけど)。

きくちさんに「先生」と付ける事によって、権威性を付加しているんでしょうね。論宅さんが「認めれば」、その内「菊池さん」にすると思います。

違うかも知れませんけど。

野暮野暮。

投稿: TAKESAN | 2007年8月23日 (木) 09:12

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