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2007年3月16日 (金)

メモ:武術とトレーニング。と、色々

プロ合気道家トム・モリゾーの上手くなるブログ道場:読者の質問箱 その20

これは、物凄く難しい問題なのですね。このシンプルな問いに答えるには、大変広範な知識と、深い認識力が、必要とされます。

つまり、次の様な疑問に答えられなければ、充分とは言えません。

  • ウエイトトレーニングとはどういう概念か。これは、スポーツ科学等の、身体運動に関する科学で論じられる。
  • 合気道は、どの様な運動構造を持っているか。それを踏まえた上で、どの部分の筋力を鍛えるのが望ましいかを見出す。
  • 上と関連して。そもそも、合気道にとって望ましい動きというのは、どの様なものを指すのか。一般的なスポーツと異なり、評価基準が、大変解りにくい。流派にもよるし、何を武術に求めるか、という所も関わってくる。一口に「合気道」と言っても、各体系には、大きなバラツキがある。武器術の有無、試合の有無、気の流れを重視するか、固い稽古を重視するか、等々。
  • 状況から切り取って、特定の筋肉を選択的に鍛える事によって、パフォーマンス全体に、どの様な影響を及ぼすか。それは、全体として調和すべき「合気道の技術」を、崩す事にはならないか。これは、多くの武術家が感じている懸念であると考えられる。

他にも色々あるでしょうけれど、キリが無いので。

はっきりと言えるのは、「優れた身体運動」とは、「必要な場所の筋肉を適切に収縮させ、必要無い所の筋肉を弛緩させる」、という事です(使用筋配分)。自然科学的には、そうなります。

しかし、人間は、単なる機械的存在では無く、複雑な認知機能を備える存在です。事は、そう単純ではありません。たとえば、パフォーマンスに必要な筋肉をウエイトトレーニングで鍛え、筋力が高まったとしても、それが、実際の状況において「使えるかどうか」というのは、別の話です。これは、高岡英夫氏の論の参照ですが、ウエイトトレーニング等は、実際の種目における動きとは、全く別のものなのです。従って、重要なのは、トレーニングが必要かどうか、という所では無く、実際の状況において適切に使える事が出来るか、という事です。単に「必要か」という問いなら、トム・モリゾーさんと同じく、「体系による」としか、答えようが無いのですね。ある部分の筋肥大がパフォーマンスの向上に役立つとはっきりしているならば、適切な処方によってトレーニングすれば、良い効果が得られるでしょうし、そもそも強大な筋力が必要とされない種目なら、トレーニングが悪影響を及ぼす場合もあるでしょう。筋が肥大する事自体が、運動に邪魔になる場合もあります。

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えっと、何か、集中力に欠けていて、全く文章が纏まらないので、以下は、余り厳密さを考えずに、日常的な言葉も含めて書きます。何か、話題もずれてますけれど。

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大事なのは、バランスですね。どこかの筋肉を鍛える、という考えでは無くて、全体として調和の取れた鍛え方をする、という事です。それを踏まえた上でやらないと、弊害になる場合もあるでしょうね。

又、「脱力」の概念、これがとても重要です。一般に「脱力」というと、ただ単に「力を抜く」というイメージですが、正しい脱力というのは、上にも書いた通り、収縮すべき筋肉を適切な強さで収縮させ、弛緩させるべき筋肉をしっかり弛緩させる、という意味です。ですから、「必要な筋肉を収縮させる」という部分も含めて、脱力なのですね。これは当たり前ですね。人間は、立つだけでも、筋肉の収縮が必要な訳ですから。だから、最も少ない筋力発揮で動く、という考えが、必要になるのです。具体的には、腸腰筋(腰椎と、骨盤・大腿骨を繋ぐ筋肉。大腿骨を引き付ける、又、上体を屈める、つまり、大腿を屈曲させる働きを持つ)や、ハムストリングス(大腿の後面の筋肉。大腿を後方にスイングする、つまり、大腿を伸展する働き、及び、膝関節を屈曲させる働きを持つ)が重要ですね。より中心に近い所の筋肉の収縮・弛緩を繰り返しながらバランスを取って動く、という事を心がけるべきです。多くの人は、全身の筋肉を不必要に固めて、身体を彫像の様にして立ち、運動するのですね。そうすると、元々必要無い筋肉を固めてしまっている訳ですから、一旦その力を抜いてから運動しなければなりませんし(殆どの人は、必要無いのに、肩甲骨周りの筋肉を、持続的に固めています。そうです、「肩凝り」の事です)、エネルギー的にも、とても無駄です。最近では、コア・トレーニングという考えが、ある様ですね。結局、常に必要最小限の筋出力に留めておいて、目的の運動に適切に応じる事の出来る身体のあり方を、求めなければなりません。感覚的な表現をすると、普通に地面に立っている時でも、綱渡りをしているかの様なバランスのとり方をする、という感じですね。

しかし、大部分の人は、自分のどこに力が入っているか、というのは、意識(認知)した事すら、無いと思います。肩凝りくらいは、たまに感じる機会はあるかも知れませんが、それが全身に存在するというのは、考えていないでしょうね。ここで、内観が重要になります。自分のどこの筋肉が固まっていて、どこが柔らかいか。さすってみたり、マッサージしたりして、その分布を感じます。ただ、内観は、主観であるだけに、間違う事も、かなりあります。「○○筋を感じる」と言ったり、「ハムストリングスを使って立っている」と言って、実は全く出来ていなかったり、という感じで。指導者の立場の人でも、往々にして観られます。ですから、内観は重要ですが、それと共に、外部からのチェックも、した方が良いでしょう。たとえば、圧力板に乗って重心の動きを測定したり、筋電位を測って、筋収縮の度合いを測定したり、といった具合に。勿論、コストの問題もあり、なかなか難しいですが。武術の世界にも、言っている事とやっている事が違う人は、結構いるのですね。それは、直接観察するのが難しいので、間違っている事に、本人も気付きにくいのですね。余り、主観に頼り過ぎると、そうなってしまいます。ですから、内観によって、自分の身体のあり方を捉えつつ、それが誤っている可能性に、常に気を配る事が、必要でしょう。

自分でもびっくりする程、散漫な文章だ…。じゃあエントリーを上げるな、と言われそうな気もしますが。

お勧め文献。

鍛練の理論―東洋的修行法と科学的トレーニング Book 鍛練の理論―東洋的修行法と科学的トレーニング

著者:高岡 英夫
販売元:恵雅堂出版
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鍛練シリーズは、読むべきですね。難しい本ですけれど。

究極の身体 Book 究極の身体

著者:高岡 英夫
販売元:講談社
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「運動進化論」というのは、概念としてどうなんでしょう? それはともかく、組織分化の考えとか、多重中心構造とか、大変参考になります。

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コメント

合気道でいう美しい所作の「美しさ」を定量化する話と関係しますね。

格闘系ゲームのキャラのCG動画作る時みたいな赤外線マーカーと、加速度センサーと、床に感圧センサーと付けて、それらを同期させて計測したら何か分かるかもしれない。

九州大学の源田さん所が、歌舞伎役者、韓国伝統舞踏家の技のアーカイブ化、パーキンソン病の方と健常者の筋肉の使い方の比較なんてのをやっているけど、それと系統は同じだと思います。
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~kansei/outline.html

投稿: JosephYoiko | 2007年3月17日 (土) 14:32

JosephYoikoさん、今日は。

バイオメカニクスの研究等で、モーションキャプチャを用いて動きを解析すれば、色々な事が解るでしょうね。体系において「美しい」とか「上手い」と評価される動きを、定量的に捉える事も、可能になってくると思います。
問題は、武術系の人が、どれ程そちら側に関心を持つか、という所でしょうね。しかも、達人クラスの武術家でないといけませんが、一般には年配の人が多いので、なかなか難しいかも知れません。WEBで論文等調べても、余り数は多くないみたいです。

以前、月刊『秘伝』で、黒田鉄山氏の動きを、筋電計や高速度カメラを用いて分析する特集がありましたが、ああいうのが増えてきたのは、良い事ですね。

 >九州大学の源田さん所が

これは興味深いですね。伝統文化を科学的に研究するのは、有意義だと思います。武術系で、こういう研究に積極的に関わる人も、増えていけば良いのですが。「科学に何が解るか」と言う人も、結構おられますので…。

最近では、映像からモーションキャプチャ出来る物や、フォースプレートを使って重心位置を計測するソフトが、個人でも入手出来るくらい安価で有りますから、そういうのを、どんどん取り入れていくのも良いですね。

投稿: TAKESAN | 2007年3月17日 (土) 17:03

最近「構造構成主義」という理論が注目されているんだそうですが、御存知でしょうか?
人間科学の研究現場で起こる信念対立を如何に克服するかを目的に、竹田青嗣の現象学、池田清彦の構造主義科学論を継承して構想されたメタ理論だということです。

興味深いのは武術についての言及もあるようで、甲野善紀に影響を受けている様です。
私も本を注文した所なので具体的な理解はまだですが、どういうものか注目しています。

「構造構成主義が成立した背景とその概要」
http://structuralconstructivism.googlepages.com/saijo

投稿: 夢草の剣 | 2007年3月19日 (月) 01:03

夢草の剣さん、今晩は。

おお、何の偶然か、明日、西條氏のエントリーに言及した記事を、アップします。

詳しく調べた訳では無いですが、池田氏との共著を一冊、読みました。

 >武術についての言及

その様ですね。甲野氏を、かなり好意的に評価しておられる様です(因みに、私は、甲野氏には批判的です)。

西條氏に触れたエントリーです⇒
http://seisin-isiki-karada.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/magicsword.html

http://seisin-isiki-karada.cocolog-nifty.com/blog/2006/01/post_4597.html

注目されている様ですね。『現代のエスプリ』で、特集が組まれていました。
現場の学者がどう捉えているか、興味深い所です。

投稿: TAKESAN | 2007年3月19日 (月) 01:28

あ~、もう既に記事になさっていたんですね、大変失礼いたしました。(--;
最近mixiに入って、竹田青嗣関連のコミュニテイを探していて構造構成主義に行き当たったのですが、私は竹田現象学から多くのことを学んだので、それを受け継ぐという構造構成主義に少なからず関心があります。
『現代のエスプリ』は私も注文してるんですが、まだ届きません。待ち遠しいです。

しかし不思議な偶然ですね。関心領域が近いと何かシンクロする部分があるんでしょうか。…あ?ちょっと擬似科学っぽい(汗)

投稿: 夢草の剣 | 2007年3月19日 (月) 23:33

夢草の剣さん、今晩は。

西條氏は、竹田氏にも、多大な影響を受けておられるみたいですね。竹田氏の本は、西研氏との共著を、読んだ事があったと思います。でも、現象学は、大変興味のある分野なのですが、全然勉強していないです…。

こちらにコメントを下さる、慶さんという方がいらっしゃるのですが、慶さんのブログ経由で、構造構成主義を知りました。といっても、ちゃんと調べてはいないのですけれども。

投稿: TAKESAN | 2007年3月20日 (火) 00:23

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