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2006年8月30日 (水)

表明

自分のブログで扱っていながら、ちゃんと評価しないのも宜しくないので、今の内に書いておきましょう。※例によって、高岡英夫氏を知らない方にとっては、全く意味不明だと思います。

私は、高岡英夫氏の著作や発言等に注目しているのですが、その中には、明らかに、疑似科学的と言えるものもあります(「気」のエネルギーを肯定的に論じる等)。それは、明確に批判(否定ではありません)されるべきであると考えています。ただ、注意しなければならないのは、高岡氏自身が、自説を「仮説」であると、はっきりと仰っている事です(『DSが解く達人のメカニズム』BABジャパン 等)。高岡氏の研究は広範であり、それらを一緒くたにして論ずる事は、早計であると考えます。

高岡氏に対しては、手放しの絶賛や、頭ごなしの否定がよく見られますが、よく著作等を吟味して、正確な批判を心掛ける必要があるでしょう。

以下、高岡氏の言説に対して、個人的に思う事

高岡氏は、東大大学院で研究していたとの事で、実証研究もされているようですが、それを著作で公開する事は、それ程多くありません。ただ、ゆる体操の実証研究は(疫学的研究も行われているようです。運動科学総合研究所のサイト参照)、部分的に、積極的に公開されています。また、合気上げの動作分析(『合気・奇跡の解読』 ベースボール・マガジン社)は、詳細なデータが公開されており、注目すべきです。2006年9月1日追記:高岡氏は、著書で、原理論の構築が重要である事を明記されており、実証科学的研究の成果を発表する事は控える、という内容の事も書かれていたと記憶しています(確か、武道論シリーズだったと思うのですが、ソースは失念しました)。勿論、実証科学的研究の重要性も説いておられましたけれど。←記憶に基づいて書いていますので、異なる所もあるかも知れません。

高岡氏の著作では、非常に優れた認識力で対象が分析されていて、成る程と納得させられる記述が多いのですが、それを支持する資料は、余り呈示されません(例えば、江戸時代の人間は総じて高い身体能力を持っていた、という説。学術的に、それを支持する研究はあるのかも知れませんが(教えて頂けたら幸いです)、言及はありません。当時、写真やビデオはありませんから、文献学的研究に頼るしかないのでしょうね。飛脚が一日で何里走ったか、とか)。そこは欠点の一つであると言えるでしょう。

身体意識理論については、その対象が「意識」である以上、直接観察する事は出来ません。その意味では、科学的厳密性は欠く、と言えるでしょう。上にも書いた通り、高岡氏自身が、明言なさっています。私は、意識を3種に分け、その内の、体性感覚を基にした意識系を、体性感覚的意識(略称「身体意識」)と概念化し、それが幾何学的構造を為している、という説には賛同しますが、その先の、それが遍在している(死んだ人のDSが解る、とか…)、という説には、懐疑的にならざるを得ません。それを認めると、何でも説明出来てしまう、という事になってしまいます。そうなると、ニセ科学的色彩を帯びてきます。

高岡氏の、「ゆる」の理論や、「究極の身体」論については、賛同します。ただ、ゆるを行う事と、身体がゆるむ(正確には、ゆする―ゆれる―ゆるむ、の関係。「組織分化」が進む、と言っていいでしょうか)ことに、どの程度因果関係があるかは、研究が進むのを待つ必要があるでしょう。高岡氏がよく主張される、全身の筋肉の弛緩性が高く、運動時にはそれが連関的に働き、高度なパフォーマンスを生み出す、という論理は、バイオメカニクスの理論から演繹的に導かれる結論でしょうから、妥当と言って差し支えないかと思います。その論理を、詳細に記述する必要はあるでしょうけれど。現代日本人に拘束(全身的に、筋肉が恒常的に収縮している。※ここでは筋肉とします)された人が多い、というのは、私も、日常、他人を観察していて、そうだろうな、とは感じますが、それはただの印象に過ぎませんので、これも、実証するべきでしょう。

高岡氏が提唱される、「身体資源論」は、注目すべき概念であると思います。この概念は、即ち、人間の身体を開発の対象とする、という事です。自分の身体が未開発であり、そこには無限の開発の余地がある、という論理には、個人的に、大きく共感しました。勿論これには、私が元々、身体運動文化に特別の関心を持っていた、という事も影響しているでしょうけれど。ただ、これは思想にも関わる問題ですので、個人的に共感する、という程度の主張に留めます。

私は、数年前から高岡氏の著作を読み始め、「この人の頭の良さには、絶対に敵わないな。」と思いました。今も、連載の記事等を読むと、やっぱり凄いな、と思います。ただ、色々な所で指摘されている様に、いわゆる「トンデモ」的な部分があるのも確かです。それは、しっかり押さえておくべきです。最近は、テレビ出演も多い様ですし(私は、あの「出方」は、ちょっとな…。と思っていますが。恐らく、色々な見られ方を踏まえた上で、出演なさっているのでしょうけれど)、マスメディアで取り上げられる事も多くなっています。だからこそ、正確な批判を行うべきだと思うのです。

2006年9月1日追記:高岡氏に関して、とても的確な論評を行っているブログを発見しましたので、ご紹介します⇒Coach*Romi-kunさんの、So-net blog:コーチの気まぐれ研究日誌:「ゆる」と「運動科学」~ホーリスムの勝利(他にも、複数のエントリーに言及があります) コーチングについてのエントリーが豊富で、非常に勉強になります。ただ、森昭雄氏の研究に好意的な記述もありますが…(※読み直しましたが、直接森氏の説が紹介されている訳ではありませんでした。とは言え、森氏の著書へのリンクがありましたので、ある程度好意的であると判断して構わないかと思います)。追記:これについては、私の誤解がありました。ご本人が説明して下さっていますので、コメント欄をご参照下さい。

参考図書を、挙げておきます。

Book DSが解く達人のメカニズム―現代武術8つの極意

著者:高岡 英夫
販売元:BABジャパン出版局
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「ゆる」スポーツ・トレーニング革命―ウェイトトレーニングはもういらない!? Book 「ゆる」スポーツ・トレーニング革命―ウェイトトレーニングはもういらない!?

著者:高岡 英夫
販売元:大和書房
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「体をゆるめる」と必ず健康になる―心と体が若返る究極のリラクゼーション「ゆる体操」 Book 「体をゆるめる」と必ず健康になる―心と体が若返る究極のリラクゼーション「ゆる体操」

著者:高岡 英夫
販売元:マキノ出版
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合気・奇跡の解読 Book 合気・奇跡の解読

著者:高岡 英夫
販売元:ベースボールマガジン社
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意識のかたち―現代に甦る天才の秘密 Book 意識のかたち―現代に甦る天才の秘密

著者:高岡 英夫
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ハラをなくした日本人 Book ハラをなくした日本人

著者:高岡 英夫
販売元:恵雅堂出版
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丹田・肚・スタマック―自分の中の天才を呼びさます Book 丹田・肚・スタマック―自分の中の天才を呼びさます

著者:高岡 英夫
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センター・体軸・正中線―自分の中の天才を呼びさます Book センター・体軸・正中線―自分の中の天才を呼びさます

著者:高岡 英夫
販売元:ベースボールマガジン社
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極意と人間―極意学入門 Book 極意と人間―極意学入門

著者:高岡 英夫
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究極の身体 Book 究極の身体

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からだには希望がある Book からだには希望がある

著者:高岡 英夫
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コメント

我がブログへのご参集どうもありがとうございます。

森先生は一応、私の恩師スジ(日大の院です)に当たるのでリンクを張っていますが、私個人の考えとしては森先生の実験のように短絡的にITが悪影響を与えるということにはならないように思います。実際に一日に何時間も端末前にて仕事しなくてはならない人もいらっしゃるわけですから…。

私として完全に肯定することはありませんが、ある種の現象学的考察としてその存在価値を是認することも必要である、というぐらいの立場としてお考えいただければいいと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: Coach*Romi-kun | 2006年9月 1日 (金) 02:28

Coach*Romi-kunさん、今日は。

申し訳ありません、私が誤解してしまった様ですね。早速、本文に補足致しました。

 >今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
こちらこそ、宜しくお願いします。貴ブログは、とても参考になるので、勉強させて頂きたいと思います。

投稿: TAKESAN | 2006年9月 1日 (金) 10:37

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運動科学総合研究所の高岡英夫先生は日本のスポーツ業界の中でも傑出した特異な人材であると言うことについて異論を挟む方はいないであろう。今をさかのぼること10数年前、東京のとある国立大学の学生だった私は、それまで体育の研究はスポーツ科学という分野に限ると偏狭に考えていたのであるが、高岡先生とその理論との出会いが、今の私の仕事に結びついていると言っても過言ではない。 マイネルスポーツ運動学作者: クルト・マイネル出版社/メーカー: 大修館書店発売日: 1981/01メディア: 単行本 体育学の碩... [続きを読む]

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TB失礼します。健康を維持するのに運動は不可欠なものですよね。どれくらい健康と運動が切っても切り離せないかといえば・・。 [続きを読む]

受信: 2006年9月21日 (木) 23:27

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