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2006年2月12日 (日)

手の裡

テニスのシャラポワ選手や、野球の松井秀喜選手は、手にマメが無いそうです(シャラポワ選手は、インタビューした方の証言。松井選手は、ご本人の証言)。

手にマメが無いという事は、力を抜いて、グリップに手の平を馴染ませる様に握っている、という事を意味しています。特に松井選手は、はっきりと、力を抜いて握る、と仰っていました。

運動科学者の高岡英夫氏は、この様な柔らかい握り方を、「液圧」と概念化されています(正確には、「液圧」は、もっと一般的な概念なので、「液圧のメカニズムによって得物を握る」、と言うべきですが)。

「私がこれまで各所で語ってきたことですが、高度な身体運動にとって「脱力」とは、全身の筋肉に収縮と弛緩を適正に配分することだけでなく、収縮させる筋肉にも絶妙の筋力バランスと収縮の質の高さを含むものです。この例で言えば、親指、人差し指系の筋群は弛緩させ、薬指、小指系筋群は収縮させ、中指は中間的に弛緩させるというだけでなく、小指・薬指・中指の筋力バランスは無上に滑らかに三指の中を流動変化し、さらにその筋出力の質自体も強靭かつ柔軟で弾力的なものでなければならないということなのです。私はこの収縮系の術理を「液圧」と呼んでいます。硬い骨を力の伝達装置としているにも拘らず、液体を力の伝達装置とする以上に、滑らかな変化流動性と柔軟性に富んだ磐石の手掌内圧を生み出すのです。」(高岡英夫:『月刊秘伝 2003年4月号』,BABジャパン※文は増井浩一による)

上記引用は、宮本武蔵の刀の握り方について言及されている部分ですが、このメカニズムは、当然他の種目にも当てはまります。

シャラポワ選手や松井選手は、「液圧」でラケットやバットを握り、超一流のパフォーマンスを発揮している、と言えるでしょう。手と道具を密着させ、手から道具が離れない分だけの、ギリギリの筋収縮を行っているのだと考えられます。道具を「握り締める」事は、力学的にも、生理学的にも、とても不合理です。道具を支える最小限より大きい力を加える事は、力学的に無駄ですし、余分な筋収縮の為にエネルギーを消費する事にもなります。又、手を強く握り込むと、手首や肘の自由な運動を阻害します。それは延いては、道具の合理的な運動を阻害する事にもなります。武術の達人の教えに、「力はあっても良いが使ってはならない。」というものがありますが、これは、上の様な不合理な身体の使い方を戒めているのでしょう。

手のマメや胼胝を誇る人がいますが、それは、マメや胼胝を、「努力」を象徴する記号であると看做している、と思われます。マメや胼胝が出来る程練習しているのだ、と。それは、「言い訳」をするための装置にもなります。「これだけ努力して駄目だったのだから、仕方が無い。」という具合に。マメや胼胝が、「不合理な身体運動」の産物である可能性を考察せず、自己満足に陥っている、と言えるでしょう(マメや胼胝が出来る事自体を否定するものではありません。種目によって力学的条件は異なりますので、一概には言えません)。

常に、「自分がやっている事は、果たして妥当なのだろうか。」という、反省的認識を持つべきだと考えます。

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